「そうか?」雅之は、里香の白くて純粋な顔をじっと見つめたかと思うと、ふいに身を屈めて彼女の後頭部を掴み、そのままキスをした。雅之のキスには、まるで狙いすましたかのようなテクニックがあって、じわじわと里香を引き寄せていく。彼女が我慢できなくなり、自ら絡みついてくるのを待っているように。「信じられないな」彼の呼吸が荒くなり、しゃがれた声で、唇の形をなぞるようにささやいた。外は夜も深まり、街灯の光は届かず、車内は薄暗いまま。二人の吐息が重なり合い、車内の温度もどんどん上がっていく。車は木陰に停めてあり、揺れる影が二人の顔に淡く映っていた。里香は抗おうとしたが、体がすでに雅之の手の感触に慣れてしまっているせいか、ほとんど抵抗の意思もなく体がふにゃりと力を抜いてしまった。雅之は低く笑って、「でも君の体は正直だな」と言った。里香の潤んだ瞳には、また涙が滲み、息を乱しながら言い返す。「私は普通の女よ。こんなふうに誘われたら、誰だって......他の男でも同じように......」でもその言葉を言い終える前に、また彼の唇が覆いかぶさった。そんな話、聞きたくもない! 他の男にこんな反応を見せるなんて、考えただけでも気が狂いそうだ!「んっ!」里香は思わず雅之を押し返そうとしたが、彼のキスはますます深く、激しさを増していく。彼は彼女の腰を掴むと、そのまま膝に引き寄せ、彼女を自分の膝に座らせた。大きな手でしっかりと彼女の腰を押さえ、二人の体はぴったりと密着した。お互いの体温を感じるほど、身を寄せ合ったまま。里香の顔は真っ赤で、呼吸も乱れっぱなしだ。雅之は彼女の手を取ると、ベルトのバックルにそっと触れさせた。「欲しいのか?」里香は腰が支えきれず、ふにゃりと彼の胸に身を預けてしまう。「雅之......感情はさておき、身体の相性だけなら、私たちいいかもね」雅之は彼女の顎を掴み、強引に自分を見るようにさせながら冷たく言った。「水を差す女に惚れてしまうなんて、僕もどうかしてる」里香のまつげが微かに震え、心の奥に築いた壁が崩れそうになる。雅之は再び彼女にキスをしたが、今回は意地悪く唇を軽く噛んだ。まるで罰でも与えるかのように。痛みに思わず涙を浮かべた里香を見て、雅之はふと手を離す。「誰が、お前と相性がいいって言った?」里香は
雅之は深い眼で、まだ赤みを帯びた彼女の顔をじっと見つめた。「わかった、自分で解決するよ」そう言って、彼はベルトのバックルを開けた。カチッという軽快な音が響き、里香の呼吸が一瞬止まり、車内の空気が急に足りなくなったような気がした。喉が少し渇いてきた。次の瞬間、手がぐいっと引かれた。「何してるの?」里香は驚いて、無意識に抵抗した。雅之の鳳眼は冷ややかに彼女を見つめた。「自力でなんとかしてるんだよ」「あなた......」里香は何か言おうとしたが、突然顔が真っ赤になり、指は軽く縮んだ。だが、それはますます熱を呼び起こすばかりだった。雅之の喉仏が力強く動き、依然として彼女をじっと見つめ、呼吸が次第に重くなっていく。里香は顔を背け、もうどうにもならないとばかりに放っておいた。どうせ、手を貸すつもりはなかったのだから。「ほんとに意地悪だな」雅之の低くかすれた声が耳元に響き、里香の神経をかき乱した。里香は唇を軽く噛んで、自分が声を立てないように必死に我慢した。どれほどの時間が経っただろうか。何もしていないにも関わらず、彼女の指はすでに疲れてきたが、車内の雰囲気はますます狭く、そして妖しげになっていった。これには一向に終わりが見えないようだ。「もういい加減にして!」里香は堪えられずそう言った。雅之は顔を近づけ、彼女の唇に軽くキスをした。「それだけの時間で、足りるのか?」里香:「......」鮮やかな唇を噛みすぎて、血がにじみそうだ!まるで何世紀も経ったかのように長い時間が流れ、ようやく雅之はウェットティッシュを取り出し、彼女の指を丁寧に拭き始めた。里香は少し息をつき、「どこでプレゼントを買うつもり?」雅之の声は、満足感を帯びたかすれた音色。「さあね」里香は彼を見据えた。「全部あなたのせいよ」雅之は彼女を見返し、まだその目には輝きが溢れていた。その抑えつけていた欲望の炎が再び燃え上がりそうになっている。里香は急いで目をそらし、彼を挑発しなかった。雅之の絶倫さは、里香もよく分かっている。雅之は彼女の手をきれいに拭いて、ようやく自分の整理を始めた。すべてが片付いた後、彼はタバコを一本取り出し、火を灯した。火の光はタバコの先で揺れ、淡い煙が漂い始めた。彼は目を半分閉じ、何とも言えない曖昧な表情
祐介は目を伏せ、心の中で感情が渦巻いていた。深い闇がまるで溶けない墨のように広がっていた。しばらくして、ようやく車のエンジンを始動し、その場を離れた。上の階では、月宮がかおるを抱きしめて気持ちを落ち着けていた。「ちょっと、もういい加減にしてくれない?」かおるは息ができないほど押しつけられている。この男、抱きしめることを際限なく続けている!月宮は歯を食いしばって、「もう一度言ってみろ?」かおるは彼の体温を感じ、これ以上強がる勇気がなかった。だって、今は彼に完全に押さえつけられているのだから。もし彼女が体勢を取り戻したら、絶対に彼の歯を全部折ってやる!「皆もう出て行ったわよ、あなたも行けば?」かおるが言った。外の騒動は、かおるにははっきりと聞こえていた。少し気まずいけど、大したことじゃない。月宮はかおるの頬に浮かぶ淡い赤い色を見つめた。化粧もしていないのに、まるで殻をむいたゆで卵みたいな肌だ。その瞳は生き生きとしていて、さらに淡い赤みも帯びていて。明らかに感情が動いた兆候だった。月宮は顔を近づけた。かおる:「何してるの?まさか、私にキスしようとしてるの?」月宮:「......」その一言で彼の動きは止まった。そうだ、俺は何してるんだ?かおるの顔を見ると、ついキスをしたくなってしまうのか?かおるは無表情で、「何?癖になっちゃったの?悪いけど、私は一度寝た男に未練はないの。それに言わせてもらえば、あんた、使い物にならないわ」月宮の顔は真っ黒になった。「それ、どういう意味だ?」かおるは目をぱちぱちさせて、「どういう意味って?私、これでもすごく気を使って言ってるんだから。それをなんで掘り下げるの?本当の所をはっきり言ったら、傷つくのはあんただけでしょ?それでもわからないの?」「へっ!」月宮は冷たく笑った。「誰が下手だって?昨夜は誰が、『ダメ、止めて』て叫んだんだっけ?」かおるの顔が黒くなった。「あんな下手くそじゃ、私だって拒否するわ!」月宮の唇の端の笑みは完全に消えた。「下手くそ」「使い物にならない」彼は完全に貶められた気分だ。男ってのは、こういうことだけは我慢できないものだ!「クソ男!」と面と向かって罵られても、ベッドで使えないなんてことは絶対に言わせない!月宮は歯を食いしばって、「今す
雅之は車を運転して、直接に二宮家へ戻った。本当、あきれたと、里香は思った。買い物なんて言っていたが、全部嘘だったんだ。里香は無表情で車を降り、内部へ向かって歩き出した。「どこへ行くんだ?」雅之は彼女の腕を掴んだ。里香は言った。「もう遅いし、休んだ方がいいわ」「休むのは後だ」そう言って、雅之は里香を連れて別の方向へ歩き出した。二宮家の別荘はとても広く、里香がまだ行ったことのない場所が多かった。ある扉の前に来て、雅之が扉を押し開けると、中にはさまざまなコレクションが並んでいた。里香は少し驚いて言った。「これは?」雅之は言った。「おばあちゃんに贈るものを一つ選びなさい」里香は近づき、ガラスケースが中のものを覆っており、灯りがまっすぐその中に射していた。この部屋には古い骨董品や書画、翡翠や宝石、アクセサリーがずらりと並び、なんでも揃っていた......全てのアイテムには値札がついていた。いくつかは購入されたもので、いくつかはオークションで競り落とされたものだった。どれも非常に高価だ。里香は、その数字の後ろに並ぶゼロを見るだけで、つい感嘆せずにはいられなかった。お金持ちは恐るべし!雅之はドアの前に立ったまま言った。「気に入ったものがあれば、僕の口座に直接振り込んでくれればいい」里香は戸惑いの表情で彼に視線を向けた。「私に売るつもりなの?」雅之は片眉を上げて言った。「他に何がある?」里香は思わず唇を引きつらせた。恥ずかしくも、好きなものを選ばせるというのは、てっきりプレゼントかと思ったと言いたいところだった。口に出さなくてよかった。どれ一つとして、彼女には買えるものがなかった。雅之は片手をポケットに入れ、部屋に入り、ざっと見渡した後、最終的に視線を一つの翡翠の簪に落として言った。「これはいいな。おばあちゃんは簪が好きだから」里香はその簪の値段を一瞥した。なんと、8億円。なるほど、ちょうど自分の持っている額だ。つまり、雅之は里香の持っているお金を見越してこれを勧めたってこと?里香は軽く笑って言った。「あなた、さすが商売人ね」雅之の端正な顔は穏やかで、美しい目は微笑みを浮かべながら、彼女を見つめていた。「お金を出さなくてもいいよ。代わりにちょっと手伝えば」里香は一瞬何のことか
里香はただ、いつになったらこの結婚生活を終えられるのか、そればかりを考えていた。雅之が歩み寄り、そっと手を差し出した。黒のドレスを身にまとった里香は、気品が漂い、高貴な佇まいを見せていた。美しい顔立ちはどこか繊細で、その瞳には静かな清らかさが浮かんでいる。細い腰と柔らかなヒップラインが絶妙で、周りの視線を自然と引きつける。雅之の手に、自分の手をそっと重ねる里香。彼はその手をしっかりと握り、強い感情を瞳に宿しながら低い声で言った。「里香、君は本当に美しい」里香はふっと微笑んで、「ありがとう。でも、今さら?」と軽く返す。雅之は少し困ったような顔をしたが、怒るでもなく、その目の中には柔らかな光が一層強まっていく。月宮の助言に従っているのか、いつもより優しい雅之。そんな彼に里香も距離を保ちながらも、この二日間は静かに過ごせていた。――もしこのままなら、案外やっていけるのかもしれない。そう思わせるには十分な時間だった。二人はそのまま二宮家の屋敷を出て、車に乗り込んだ。二宮おばあさんの誕生日パーティーは、本宅で開催される予定で、招待客は冬木の上流階級ばかり。華やかな一流女優も、ただの添え物にすぎない。敷地に到着し、車を降りると、豪華な赤いカーペットが玄関から庭までずらりと敷かれていた。細部まで飾り立てられた庭の赤い横断幕には、おばあさんへの祝辞が綴られている。「雅之様が来たわ!」「見て、隣の女性って誰?」「噂によると、奥さんらしいよ!」周囲からのひそひそとした声が聞こえてくる。雅之は端整な顔立ちを冷ややかに引き締め、何も言わずに里香を連れて邸宅へと進んだ。そこには、友人たちと話していた正光がいた。雅之と里香が現れた瞬間、彼の表情が一瞬固まった。「ちょっと失礼」正光は軽く友人たちに挨拶し、すぐに雅之に歩み寄ってきた。「雅之、彼女を連れてくるなって言ったはずだ。彼女がどんな立場か分かっているのか?こんな場所には相応しくない」怒りを抑え、低い声でそう言う正光に対し、雅之は冷淡に返した。「彼女は僕の妻だ、正真正銘の」正光は何とか怒りを抑えつつ、「彼女のこと、誰かに紹介でもしたのか?」と問い詰めた。「忘れてたな」と、雅之はさらりと答え、執事を呼ぶと、わざとらしく大きな声でリビングの客人にも聞こえるよう
「いつ彼女と離婚するの?」個室の中で、女の子は愛情に満ちた瞳で目の前の男性を見つめていた。小松里香は個室の外に立っていて、手足が冷えている。その女の子と同じく、小松里香は男の美しく厳しい顔を見つめ、顔色は青ざめている。男は彼女の夫、二宮雅之である。口がきけない雅之は、このクラブでウェイターとして働いている。里香は今日仕事を終えて一緒に帰るために早めにやって来たが、こんな場面に遭遇するとは予想していなかった。普段はウェイターの制服を着てここで働いている彼が、今ではスーツと革靴を履き、髪を短く整え、凛とした冷たい表情を浮かべている。男は薄い唇を軽く開き、低くて心地よい声を発した。「できるだけ早く彼女に話すよ」里香は目を閉じ、背を向けた。話せるんだ。しかもこんな素敵な声だったなんて。それにしても、やっと聞けた彼の最初の言葉が離婚だったなんて、予想外でした。人違いだったのかと里香は少し茫然自失していた。あの上品でクールな男性が、雅之だなんて、あり得ない。雅之が離婚を切り出すはずがない。クラブを出たとき、外は雨が降っていた。すぐに濡れてしまい、里香は携帯を取り出し、夫の番号にダイヤルしてみた。個室の窓まで歩いて行き、雨でかすんだ視野を通して中を覗いた。雅之は眉を寄せながら携帯を手に取り、無表情で通話を切ってから、メッセージを打ち始めた。メッセージがすぐに届いた。「どうして電話をかけてきたの?僕が話さないこと、忘れてたの?」里香はメッセージを見つめ、まるでナイフで刺されたかのように心臓が痛くなってきた。なぜ嘘をつく?いつ喋れるようになったのか?あの女の子とは、いつ知り合ったんだろう?いつ離婚することを決めたんだろう?胸に湧い上がる無数の疑問を今すぐぶちまけたいと思ったが、彼の冷たい表情に怖じけづいて、できなった。1年前、記憶喪失で口がきけない雅之を家に連れて帰った時、彼は自分の名前の書き方だけを覚えていて、他のすべてを忘れていた。そんな雅之に読み書きから手話まで一から教え、さらに人を愛することさえ学ばせたのは小松里香だった。その後、二人は結婚した。習慣が身につくには21日かかると言われているが、1年間一緒にいると、雅之という男の存在にも、自分への優しい笑顔にもすっかり
あの時に聞こえた彼の声は、音楽と混ざり合っていて、それほど鮮明ではなかった。それなのに、今の彼の低い声は里香の頭の上で鳴り響いている。その鮮明で心に響く声に、里香は息を呑むほど胸が痛んだ。雅之は話せるようになったが、彼はすぐにこのことを伝えてくれるどころか、離婚を切り出そうとしている。それは本当なのだろうか。なぜそんなことを言うのだろう。どうして離婚なんて言い出すの?そう質問したい気持ちでいっぱいだったが、我慢した。どうして離婚しなければならないのか。この1年間、彼に対して悪いことをした覚えは一度もないのに、離婚を切り出されるのなら、せめて理由を知りたい。心は冷たく感じるが、彼の体温に恋しい里香は、もっと強く夫の体を抱きしめた。「ええ、誰かと話しているのが聞こえたけど、何を話していたかはわからなかった。本当に素敵だったよ、まさくんの声」そう言いながら、彼の背中にキスをした。まさくん。その呼び方は、二人だけのプライベートな時に使う特別なものだ。そう呼ばれるたびに、雅之はさらに情熱的に応えてくれる。しかし、今夜は違った。里香は押し戻されてしまった。「疲れた」と雅之が言った。里香は顔を青ざめ、夫の立派な背中を見つめながら、突然怒りが湧き上がってきた。「だから欲しいって言ってるの。雅之は私の夫でしょう?夫としての責任をちゃんと果たすべきじゃないの?」疲れたと言っていたが、まさか他の女と寝たからではないだろうね?今すぐ確認しなければ!突然強気になった里香に驚いたのか、里香の柔らかい指が体中を這うと、雅之の息はますます荒くなっていった。体は正直なもので、この男はいつも里香の誘惑に弱い。黒い瞳の中に暗い色がちらりと光り、雅之は里香の顎をつかみ、唇を奪った。里香は無意識のうちに目を閉じ、まつ毛をかすかに震わせた。さっきの香水の匂い以外に、彼の身体からは他の匂いはしなくなっていた。里香は緊張した体をリラックスさせ、すぐに浴室の温度が上がった。彼の熱い体が彼女を包み込み、肩にキスを落とし、低く囁いた。「里香ちゃん、僕は...」里香は夫の言葉を遮るように、「もう疲れちゃった、寝るわ」と言って手を伸ばして照明を消した。何を言おうとしているのか?離婚したいとか?そんなの頷く
里香は彼を見て、「なんか言ってよ!」と話しかけると、雅之は「まずご飯を」としか言わず、里香を押しのけてテーブルに向かい、朝食を置いた。里香の心がさらに沈んでいった。夫の背中を見つめる目には絶望が満ちていた。離婚を言い出そうとした夫を止めたが、雅之の態度は明らかだった。雅之は彼女を遠ざけ、偽りの約束すらもしてくれなかった。昔の彼はこんなじゃなかったのに!あの頃の雅之はいつも里香の後ろをついて、彼女の行くところならどこへでもついて行き、どうしても離れなかった。その後、里香は雅之を引き取ることを決め、手話の読み方と学び方を教え始めた。雅之が自分を見つめる目は、ますます熱を帯びていった。里香が何をしても、雅之の目線は必ず彼女に向けられていた。まるで、彼女は彼の全世界のようだった。「まだおはようのキスをもらってないよ」里香は歩み寄って言い出した。これは二人が付き合った後の約束だった。「まず朝食を食べて、あとで話したい事があるんだ」雅之は豆乳を里香の前に押し出した。里香はこぶしを握り締めた。「食べないなら、何も言わないつもりなの?」雅之は黒い瞳で里香を見つめていた。「もう聞いたんだろう」昨日クラブの個室での話なのだろう。里香は目を閉じて、「どうして?」と聞いた。何度も何度も耐えてきたとしても、全てが明らかになった今、もう自分を欺くことができなかった。雅之は、「彼女が大切だから、ちゃんと責任をとらなきゃ」と答えた。「じゃ、わたしは?」雅之に視線を向け、里香は無理矢理に笑った。「この一年間は何なんだ」何かを思いついたかのように、里香は雅之の前に歩み寄った。「記憶、取り戻したんだろう? 自分が誰なのかを」「そうだよ」雅之は頷いた。「里香ちゃん、この一年間そばにいてくれてありがとう。ちゃんと償うから、欲しいものがあったら何でも言っていい。全部満足してあげる」「離婚したくない」里香は雅之を見つめて、はっきりと言葉を発した。雅之の男前の顔には冷たさを浮かべていた。「離婚しないといけない」一瞬、雅之からは有無を言わせないような冷たい雰囲気が漂っていた。こんな雅之の顔、これまで見たことがなかった。里香は雅之と目を合わせながら、手のひらに爪を立てた。「無理だよ」償うだと