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第37話

「行くぞ」

雅之は立ち上がり、里香の視界を遮った。

里香は彼を見上げ、「何?」と尋ねた。

雅之は彼女を見下ろし、「民政局に行くんじゃなかったのか?」と言った。

里香は目を伏せ、何も言わずに雅之と一緒に別荘を出た。

広々とした豪華な別荘を振り返り、里香はつい「もうここには来れないんだ」と呟いた。この場所が結構好きだった。

「これからも来てもいいよ」と雅之が突然言った。

里香は彼を見つめ、暗い瞳と目が合った。彼女は苦笑いを浮かべて「行かないよ。もしあなたと夏実が親密なところに遭遇したら気まずいじゃない」と言った。

その言葉に雅之の眉がひそめられ、周囲の雰囲気が急に冷たくなった。

雅之は里香を見なくなり、車のドアを開けて乗り込んだ。

里香は助手席に座ったが、運転手は車を動かすことができなかった。

彼女は不思議に思い、目を瞬きながら「どうしたの?行かないの?」と尋ねた。

運転手は冷や汗をかきながら「後ろに座っていただけませんか?」と答えた。

里香は雅之の方を振り返ると、彼の顔色がさらに暗くなっていることに気づいた。彼女は思わず笑って「前に助手席に座らせてくれたのはあなたなのに、今はダメだなんて、記憶が戻ったらこんなに気まぐれになるの?」と言った。

雅之はただ冷たく彼女を見つめていた。

彼の指示がなければ、運転手も車を動かすことができなかった。

里香はため息をつき、後ろに移動した。

「本当に面倒くさい。離婚して正解だったわ」と言った。

こんな人と一緒に生活するなて辛い。

その言葉に車内の雰囲気はさらに重くなった。運転手は慎重にバックミラーを見て、ようやく車を動かした。

里香はスマートフォンを取り出したが、電源が切れていた。電源を入れると、無数のメッセージが届いていた。

特にかおるからのメッセージが多かったので、彼女に電話をかけた。

「もしもし、里香ちゃん、今どこにいるの?安全なの?もし誘拐されたら、咳を一つして!すぐに警察を呼ぶから!」

かおるの焦った声が聞こえた。

里香は笑って「別にお偉いさんでもないし、誰が私を誘拐するの?大丈夫だよ、心配しないでって伝えたかっただけ」と答えた。

かおるは安心した様子で「あなたが無事でよかった。そうじゃなかったら、本当に自分を恨んでたわ」と言った。

里香は「なんでそんなこと言うの?」と聞い
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