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第284話

「どうしたの?」

「何でもない」雅之は視線をそらし、淡々と言った。

里香は不思議そうに感じながらも、小さなため息をつき、少しご飯を食べただけで箸を置いた。「もうお腹いっぱい」

しかし、雅之は里香の前に一碗のスープを差し出し、「これを飲め。飲まないなら、寝かせないぞ」と言った。

里香は眉をひそめ、全身で拒否感を示した。

だが、雅之の言葉には威圧感があった。仕方なく里香はスプーンを手に取り、スープを飲み始めた。その間、雅之はずっと彼女を見つめていた。その熱い視線に、里香はどうにも落ち着かない気持ちになった。

里香はため息をついて言った。「まだ病気なんだから、そんなに見つめないでくれない?」

雅之は軽く鼻で笑い、「お前が僕を誘惑してるんじゃないのか?」とからかうように言った。

里香はその言葉に驚き、目を大きく見開いた。「私が......?誘惑......?何言ってるのよ!」

自分が彼を誘惑するなんて、ありえない!

雅之の視線は、里香の胸元に興味深そうに落ちた。里香は自分の胸元に目をやり、薄手のナイトガウン越しに見える自分の体のラインに気づいた瞬間、顔が一気に真っ赤になった。

里香は慌てて胸を覆い、立ち上がってその場を去ろうとした。

なんてこと!上着を着ないまま出てきちゃったなんて!こんな格好で雅之の前をうろうろしていたなんて、雅之がずっと見ていたのも無理はない!

二人はすでに一番親密なことを経験しているとはいえ、今この瞬間、里香は穴があったら入りたいほど恥ずかしかった。

次の部屋に戻ると、里香はベッドに座り、ようやく気持ちを落ち着かせた。そのまま布団に倒れ込み、顔が熱くなるのを感じた。

この感覚、なんだか不思議だ。

リビングでは、雅之は里香の姿が見えなくなるまで見つめていたが、その後は目を戻し、テーブルを片付けるようにスタッフに電話をかけた。そして、机に向かい再び仕事に取り掛かった。

ただ、時折里香が恥ずかしそうにしていた様子を思い出すと、彼の唇には自然と薄い笑みが浮かんでいた。

夜が更け、里香は再び眠りに落ち、次に目を覚ましたのは真夜中だった。

喉が渇いて目が覚め、ぼんやりと起き上がって水を飲もうとしたが、コップが空っぽだった。

今回は里香も学んで、まず上着を羽織ってから外に出て水を汲みに行った。

ところが、リビングの灯りはまだ
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