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第210話

里香は一瞬驚いて、「でも、ああいうパーティーには出たことがないから、失敗しそうで怖い」と言った。

祐介は「大丈夫、君はただ綺麗でいてくれればいいんだよ」と答えた。

里香は頷き、「じゃあ、もし何かミスしちゃっても、怒らないでね」と言った。

祐介は軽く笑って、「絶対に怒らないよ」と返した。

里香は荷物の片付けを続けた。彼女の荷物は少なく、スーツケース一つに収まるほどだった。片付けが終わると、少しぼんやりとした気持ちになった。

こんなに長く住んでいたのに、荷物はこれだけ。つまり、最初からここを自分のものだとは思っていなかったんだ。

目の奥にかすかな苦笑が浮かび、里香はスーツケースを閉めて、それを引きながら部屋を出た。

玄関のパスコードを祐介に教えると、彼は軽く頷き、里香からスーツケースを受け取り、「行こうか」と言った。

「うん」

二人はカエデビルを後にし、里香が以前住んでいたマンションに戻った。

久しぶりに戻った部屋は少し散らかっていた。

里香は恥ずかしそうに言った。「しばらく帰ってなかったから、ちょっと片付けるね。祐介兄ちゃん、少しだけ待ってて」

祐介は頷き、簡素な2LDKの部屋を見渡しながら、狐のような鋭い目が一瞬だけ光った。

この一年間、里香はここで生活していたのか?しかし、ここには雅之の痕跡が全くなかった。

もしかして、彼女が全部片付けたのか?

里香はまずリビングを片付け、祐介にお茶を出して「祐介兄ちゃん、どうぞ座って」と言った。

祐介は「手伝ってもいいよ」と言ったが、里香は首を振り、「大丈夫、休んでて。すぐ終わるから」と答えた。

お客さんに手伝わせるなんてありえない。

祐介は里香のテキパキとした動きを見て、口元に笑みを浮かべながら、「今日って平日だよね?仕事辞めたの?」と尋ねた。

「うん、辞めたよ」

里香は淡々とした口調で答えた。

祐介は「もうそんなに早く片付いたのか?これからどうするんだ?俺のところに来るか?」と聞いた。

里香は片付けながら、「さっき大金が振り込まれたばかりだし、すぐに仕事を探すつもりはないよ。まずは人生を楽しむつもりなの」と答えた。

祐介は笑って、「いい考えだな」と言った。

部屋が小さいおかげで、1時間も経たないうちに里香は片付けを終えた。ソファに座り、一口水を飲みながら、見慣れた部屋を見つめ、
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