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第209話

自分の人生から雅之に関すNる全ての痕跡を消し去ろうとしていた。

電話の向こうで、祐介が軽く笑い、「いいよ、待ってて。すぐに行く」と言った。

「うん」

電話を切った後、里香はすぐにアプリを開いて自分のマンションを売りに出した。

それから15分ほど経った頃、インターホンが鳴った。

ドアを開けると、祐介が紫灰色の短髪をくしゃくしゃにして、ちょっと悪そうな笑みを浮かべながら立っていた。「どうして急に決心したんだ?」と尋ねた。

里香は「家が大きすぎて、一人だと怖いの」と答えた。

祐介は眉を上げて、「その理由はちょっと......」と明らかに信じていない様子だったが、深く追及するつもりはなさそうで、それ以上は言わなかった。

里香は微笑み、「祐介兄ちゃん、いかがでしょうか?」と言った。

祐介は部屋に入り、長い足で部屋を二周ほど歩き回った後、「なかなかのいい物件だよ。でも、里香、このマンションはもう中古だから、立地はいいけどすぐには売れないかもしれないし、君が期待している価格には届かないかも」と言った。

里香は澄んだ瞳で祐介を見つめ、「私の希望価格を聞いてもいないのに、どうしてわかるの?」と返した。

祐介はニヤリとして「ほう?いくらなんだ?」と問い返した。

「お金さえもらえれば売るわ」

祐介は思わず笑ってしまった。「冗談だろ?こんなにいい物件なんだから、君に損はさせないよ」

その時、祐介のスマートフォンが鳴り、彼は電話を取って「上がってこい」とだけ言い、すぐに切った。

しばらくして、スーツ姿の男性がドアの前に現れ、眼鏡をクイッと押し上げながら「喜多野様」と挨拶した。

祐介は男に手招きし、「入って」と言った。そして里香に向かって、「彼は契約や名義変更の手続きをするために来たんだ。お金はすぐに君の口座に振り込むからね」と言った。

里香は驚いて「こんなに早いの?」と聞いた。

祐介は「早くないさ。君の家には何の問題もないし、気に入ったならすぐに取引した方がいいだろ」と答えた。

里香は頷き、それ以上は何も言わず、その場で契約と振り込みの手続きを進めた。

30分も経たないうちに、家の所有者は変わった。名義変更の手続きは後日行う必要があるが、取引は完了した。今日から、この家と里香は何の関係もなくなった。

そして、里香の口座には数億円が増えていた。

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