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第208話

「行かないよ!」

そう言って、里香は桜井を見ることもなく、エレベーターに乗り込んだ。

桜井は頭を抱えるようにため息をついた。昨夜はあんなに仲良くしていたのに、どうして一晩でこんなことになったのか?

桜井もエレベーターに乗り込み、何とか事態を挽回しようと試みた。「小松さん、もし何か誤解があるなら、やっぱり社長と直接話した方がいいと思いますよ」

里香は冷たく彼を一瞥し、「出て行って」

桜井は絶句した。話し合わなければ解決しないのに、里香の冷たい視線に圧倒され、まるで雅之が目の前にいるかのような錯覚を覚えた。

桜井は何も言えず、急いでエレベーターを降りた。ドアが閉まるのを見つめながら、ため息をつき、別のエレベーターで社長室へ向かった。

社長室のドアをノックし、中から声が聞こえると、桜井は深呼吸してドアを開けた。「社長、小松さんが荷物をまとめて出て行きました」

「バン!」

雅之は手に持っていた書類を机に叩きつけ、その瞬間、オフィスの空気が一気に冷え込んだ。

雅之はスマートフォンを取り出し、里香に電話をかけたが、すぐに切られてしまった。

なんて奴だ!

自分が言うことを聞かずに無理して接待に行ったから、こんなことになった。それなのに、里香はこの件で怒るどころか、自分に文句を言ってくるなんて。

しかも、暴言まで吐くなんて!

怒りが胸の中で燃え上がり、雅之の顔はさらに冷たくなった。「彼女に伝えろ。戻ってこなければ、一生離婚させない」

桜井は沈黙し、口元が引きつった。

正直、里香はもうそんなこと気にしていないかもしれない。でも、雅之が怒りに燃えている今、そんなことは言えない。仕方なく、桜井は雅之の前で再び里香に電話をかけた。

今度は、里香が出た。

「何か用?」

その冷たい声は、電話越しにもはっきりと冷たさを感じさせた。

桜井は雅之の冷たい視線が自分に向けられているのを感じながら、何とか言葉を絞り出した。「小松さん、戻らないなら一生離婚はさせないって社長が......」

「どうぞご勝手に」

里香はその二言だけ言って、すぐに電話を切った。

「バン!」

桜井が何か言う間もなく、雅之は怒りに任せて立ち上がり、椅子を蹴り倒した。

雅之の体からはまるで炎が立ち上がっているかのようで、怒り狂った獅子のようだった。

里香は何も気にしていない。離婚す
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