第4話

悠真との間の秘密だと思っていたが、結局は私一人が勝手に思い込んでいただけだった。

「佐藤社長、私は大丈夫です。佐藤夫人は......私のことがずっと嫌いですから、あなたが私のために道理を立てて夫婦の仲を悪くする必要はありません」

私は冷ややかに美穂子を見つめて、「私と私の夫の間のことは、あなたが口出しするまでもありません！」

「奈々子！」悠真の声には明らかな不快感が漂っていた。

私は彼を見なかった。ただ、これまで守ってきた愛情がとてもおかしいと思った。

十七歳の悠真はもう死んでしまった。目の前の人はあの時の人ではない。

「奈々子、謝らないなら、離婚する！」悠真は高いところから私を見下ろし、私が妥協するだろうと確信しているようだった。

三年間、私は彼から何度もこうした脅しを聞かされてきた。

私はずっと、これは彼の気まぐれだと思っていた。

でも今、そうではないことが分かる。

私は何も反応せず、軽く「うん」と返事をしてから、振り返って立ち去ろうとした。。

だが悠真は私の手首をつかみ、少し驚いたように、「何を言っているんだ？」と尋ねた。

私は全力を尽くして彼に笑顔を向けて、「悠真、私は言ったよ。あなたと離婚しても私は謝らない！」

「奈々子、後悔するな！」彼は私の手を強く振りほどいた。

「うん、後悔しない」

私のものじゃないなら、強引に求めても結果は得られない。

会社を出た後、A市で一番の投資家、高橋翔太に会いに行った。

美穂子に捨てられた提案書を再度印刷した。

会社も私が長年かけての心血であり、悠真が私に経営を任せないとしても、私は見て見ぬふりはできなかった。

約束のカフェに着くと、高橋翔太がすでにそこにいた。

彼は窓の外をじっと見つめ、何を考えているのか分からない。精緻な横顔には少し冷淡で疎遠な雰囲気が漂っている。

私は彼に近づいて挨拶した。「高橋社長、遅れてごめんなさい」

高橋翔太は私にコーヒーを注文してくれて、落ち着いた口調で言った。「私が早く来すぎたんです。鈴木さんは私の名前で呼んでもいいです」

約束の時間は午後六時だが、今はまだ五時半だった。

私はいつも早めに到着する習慣があるが、高橋翔太が私より早く来ていた。

「高橋......」ためらった後、私は言い直した。「翔太、これは私が作成した提案書です。ご覧ください」

彼は軽く微笑みながら提案書を受け取ったが、開けるつもりはなさそうだ。

彼は私をじっと見つめ、さっき注文したコーヒーを指さして「飲んでみて？」と言った。

私はテーブルの上のコーヒーを取り、ひと口飲んだ。

五分糖の生ココナッツラテ、私が普段飲んでいる味だった。

私は言おうとしたが、高橋翔太はすでに提案書を真剣に見始めていた。

彼のまつ毛は濃くて魅力的で、指先は長く、黒いコートを着ており、韓国ドラマの主人公のような雰囲気を醸し出していた。噂とは裏腹に、接しにくいわけではなかった。

彼が提案書を見ている間に、私は携帯を開いた。

トップに固定されている連絡先をクリックすると、チャットの履歴は三日前に悠真に送ったメッセージのままだった。

夜の十一時半、私は彼にいつ戻ってくるか尋ねた。

彼はいつもこうだ。忙しくなるとメッセージも返さず、電話も出ない。結婚記念日でさえ、数時間遅れてくることもあった。