つよしとももこが海外旅行から帰ってきた。 父は一度認めた以上、家族が恨みを持って過ごすことは望んでいなかった。 そのため、今日は家族が集まれるよう、豪華な料理を用意してくれた。 「久しぶりね、月。海外から戻ってきたばかりで、ずっと会えなかったわ。どうして家に閉じこもってるの?名ばかりの娘で、お金ももらえないのかしら?」 ももこはつよしの腕に絡みつき、わざとらしく笑った。 つよしは私を一瞥し、軽蔑の表情で顔を背けた。 「たかが私生児に金があるわけないだろう。僕の母さんが正妻で、その他の女なんて父が外で遊んでただけだ。子供ができたって父は気にしないさ。君の母さんが死んで、父が哀れんで拾ってくれなかったら、誰も君なんか面倒見ないぞ」 私を侮辱するのはいいが、母のことまで言われるのは我慢ならなかった。 私が奴に手を出せないとしても、父が黙っているとは思えない。 ももこのやり方を真似て、わざと泣きながら父のもとへ走り寄った。 「お父さん〜、お兄ちゃんが、私のお母さんはただの遊び相手だったって。お父さんは私なんかいらなかったって。お兄ちゃん、私のこと大嫌いなんだって〜!」 ももこが使った策略で相手を詰む。父はこの言葉を聞くやいなや、穏やかだった表情が一瞬で険しくなった。 そのままつよしに向かって強いビンタをお見舞いした。 「今日といういい日に俺を怒らせるな!出て行けと言わせる気か!」 ももこがつよしの後ろで小声で不満を漏らした。 「あいつ、どうせ演技でしょ…」 ももこの言葉は、父の怒鳴り声で遮られた。 「ここでお前が口を挟むな!嫌なら出て行け!月をいじめるのなら、明日から一銭もやらんぞ!」 これでどちらが大事かはっきりした。 ビンタを食らったつよしは大人しくなり、ももこも怯えながら沈黙した。 夕食の席で、ももこは時折私を睨みつけてきたが、私は平然と食事を続けた。 「父さん、その…これから、少しお金を増やしてもらえませんか…?」 食事の途中でつよしが恐る恐る切り出した。 「毎月の小遣いじゃ足りんのか?この町の不動産を買い尽くす気か?」 つよしはおもねるように微笑み、「違います、父さん。最近ももこと一緒に投資をしたくて…でも、少し足りな
二人の会話を盗み聞きした後、すぐに元の場所に戻った。 まさかつよしが、学識があるように見えて実はただの恋愛バカとは。 父の隣に座りながら、先ほどのやり取りを思い出したが、父には知らせないことにした。 ももこがどんな人間か、他の人は知らなくても、私は十分に知っている。 つよしは、ももこの罠に完全に嵌っているのだろう。 彼が自分でその事実に気づけば、大人しくなるはずだ。 三日後。 私は二人のSNS投稿を注意深く観察していた。 ももこは相変わらずラブラブな生活を投稿し続けている。 どうやらつよしは本当に三日以内に莫大な金額をももこに渡したらしい。 しかし、ももこがそんな大金を一体何に使うつもりなのか? 興味津々の私は、密かに人を使ってももこの行動を監視することにした。 その結果を知って驚いた。 半月の間に、ももこは合計14回もカジノに通っていた。 つよしが「投資」として渡した金を、ももこはギャンブルに使っていたのだ。 一体どれだけの金額を賭けていたのか想像もつかない。 これで、面白い展開になりそうだ。 ちょうど私が、つよしがどこからこれだけの金を調達したのか気になっていた時、彼の借金の延滞に関する通知が家に届いた。 父は最初、関心も見せなかったが、催促者が口を開いた。 「彼はいくら借りたんだ?」 催促者は人差し指を立てた。 「千万円か?」 催促者は首を横に振った。 「一億円か?」 再び首を横に振られた時、父の顔がだんだんと曇っていった。 「まさか......一兆円?」 催促者が指を鳴らし、「正解です!利息も合わせて合計二兆円です」と答えた。 父はその場で倒れた。 つよしはとんでもないことをやらかしたのだ。 父が目を覚ました後、私はももこのギャンブルについてすべてを父に報告した。 父は怒りのあまり血圧が急上昇し、その夜すぐにつよしを呼び出した。 つよしは来るなり、父のベッドの前に跪き、「父さん、ごめんなさい!でも、ももこが投資のリターンがまだ来ていないから待ってくれって。ももこが、この投資は絶対に大きな利益が出るって言ってたんだ......」と懇願し始めた。 ももこが言うには.....
父を支えながら階段を下り、リビングのソファに腰掛けた。父の主治医も心配そうにそばを離れず付き添っていた。 つよしがももこに電話をし、すぐに来るよう伝えると、ももこはわずか30分で到着した。 リビングに入った瞬間、場の異様な雰囲気に気づいたももこは、逃げようと踵を返す。しかし、父のボディーガードにすぐに行く手を塞がれた。「ももこ、お前が借りさせたあの大金、本当に投資に使ったのか?」 ももこは平然とした顔で、涼しげに答えた。「もちろん。でも今はまだ利益が出ていない。少し時間をくれれば、きっと大金を稼げるから」 その言葉に、父が冷笑を漏らした。 「利益、だと?」 「カジノで一体どれだけの金を稼げると思っているんだ?」 父の言葉に、ももこの顔が一瞬固まった。しかしすぐに態勢を立て直し、作り笑顔で言った。「あら、お義父さん、何を言ってるんですか。投資にはリスクがつきものですわ。これもまるで株取引みたいなもので、利益が出たり出なかったりするものなんですよ」 つよしは顔を両手で覆い、深くため息をついた。 「つよし、何よそのため息。私が利益を出せるって信じてないの?」 失望した顔でつよしはももこを見つめ、「今や君は五百億の借金を抱えているんだ。それでどう信じろっていうんだ?」と言った。 この言葉に、ももこの顔の表情が一気に崩れた。立ち上がって逃げようとしたが、またしても背後のボディーガードに抑えられた。 「ちょっと......どういう意味?」 まだしらばっくれるももこに対し、私は脇に置いてあった書類の束を掴み、彼女の顔に投げつけた。 「これを見れば意味が分かるはずだ」 ももこは眉をひそめ、床に落ちた書類を拾って中身を確認した。 その中には、彼女がカジノでキャンブルをしている写真や、彼女が外で作った借金の情報が揃っていた。 「こ......こんなのデタラメだわ!!」 ももこは立ち上がろうとしたが、ボディーガードに椅子に押さえつけられた。 ももこは私を指差し、「どうせあなたがやったんでしょ?私があなたより幸せそうに見えるのが気に入らないからって、何とかして私を陥れようとして!」と叫んだ。 私は肩をすくめて答えた。「あなたが自分で蒔いた種だろ。つよし
目の前の無精ひげを生やし、だらしない姿でビール腹を抱えた男の発言に、つよしの顔色が一変し、驚きと衝撃の目で、ももこを見つめた。「君、結婚していたのか?」男は険しい顔でつよしを指さし、まるで殴りかかりそうな勢いで言い放った。「お前は誰だ?この女の浮気相手か?こいつが結婚してるって知ってたのか?俺たちには子供もいるんだぞ」つよしは絶望し、これまで信じて尽くしてきた全てがももこの嘘だったことに気づいた。「君、幼い頃に親はいないって言ってただろ?」するともう一人の男がつよしを指さし、「何を言ってるんだ?彼女に親がいない?じゃあ俺は何だ、俺はももこの父親だ!口の利き方を考えろ!」と叫んだ。ももこは面を失い、目の前の夫である大柄な男の恐怖に震えていた。「帰ったらお前の脚を叩き折ってやる。外で男を引っ掛けて恥をかかせやがって!」男の厳しい口調に、ももこはさらに体を震わせる。男はももこを立たせようと引っ張り、ボディーガードも彼女を止めようとはしなかった。ももこはボディーガードにすがりつき、「お願い、助けて!私、彼らと一緒には行けないの!」と泣きながら叫んだ。「つよし、つよし、助けて!お願い......」だがつよしの心はすでに冷え切っており、彼はようやくももこの本性を知った。ももこが「月、お願い!私たち長い付き合いでしょ!助けて!」と懇願したが、私はただ手を振って「もう戻れない」と静かに告げた。こうしてももこは連れ去られ、その夜、父は警察に通報した。詐欺に関わる巨額の金額があったため、ももこはそのまま逮捕された。ももこが捕まった時には、両脚が折られていたと聞いた。つよしはももこに騙されて借金まで負わされたことを証明し、ももこには巨額の賠償と無期懲役が言い渡された。その後間もなく、つよしは心の傷に耐えきれず、ビルから飛び降り自殺をした。父は一人息子を失い深い悲しみに暮れたが、程なくして新しい養子を二人迎え、私にはまた新しい「兄弟」ができた。ある日、庭で遊んでいると、父が「そろそろいくつかの会社を任せようかと思う」と言い出した。私は、自分がただの私生児だと思っていたので驚きを隠せなかった。その後、私は努力を重ね、会社の業績をどんどん伸ばし、社員の給料も引き上げていった。父は非常に喜び、「やはり俺の
母が亡くなった。 病気で息を引き取った。 最期の時、母は私の手をしっかり握り、繰り返し頼んだ。 「私がいなくなったら、あなたはお父さんを探しなさい」 私は母子家庭で育ち、母と二人で暮らしていた。 自分の実父が誰なのか、今まで一切知らされていなかった。 名前も、素性も、何もわからなかった。 しかし、母が死の間際に父の名前と住所を耳元で教えてくれて、初めて知った。彼が実は社長であることを。 そして、私は私生児だということも。 母はまた、あの女――つまり正妻がようやくこの世を去った、とも言った。 証として父のもとに持っていくものを渡し、母は安らかに息を引き取った。 母は何の未練もないかのように、静かに旅立った。 私は親友の山崎ももこに、このことを話した。 「社長のお父さん?山口グループって、相当な規模だよね!」 ももこはこの話を聞くなり、ぽろぽろと涙をこぼし始めた。 「私は小さい頃から親がいなくて、両親がいる感じなんて知らないの」 泣き崩れるももこにティッシュを渡しながら、私は彼女の話を聞いていた。 「私なんて、子供のころはゴミを拾って売って、それで学校に通ってたんだよ」 「年末年始はいつも一人で街をさまよっていたしね」 「家族と一緒にいる人たちを見ると、羨ましくて仕方なかった」 ももこの涙が次々と落ち、彼女の姿はとても哀れに見えた。 ももこは両手で私の手を握りしめて言った。 「月、お願い、私にも一度だけでいいから、父親がいる感じを味わわせて」 「どうやって感じるの?」私は疑問の眼差しを向けた。 「あなたと一緒にそのお父さんに会わせて、お願い!」 「え...それは、さすがに無理じゃない?」 母がくれたものは一つしかなく、それを父に見せれば、全てがわかると言っていた。 ももこは私の困惑した様子を見て、泣きながら必死に頼み続けた。 「私は幼い頃から家族がいなくて、家族と過ごしたことなんて一日もないの」 「お願い、たった三日だけでいいから、そのお父さんの娘としていさせて」 ももこが泣きながらそう懇願するので、私は断りきれないでいた。 「一日、一日だけでいい?」 ももこは私が動じないのを見て
私はあれこれと悩んだ末、やはり不安が拭えなかった。 しかし、ももこの知識を駆使した説得に、私は徐々に気持ちが揺らぎ始めた。 最終的に、母が私に託したものをももこの手に渡した。 「何がどうなっても、最後には必ずお父さんにちゃんと説明してね」 「大丈夫、任せて!」 私がももこを信頼しているのには理由があった。 私たちが知り合ったのは大学卒業後だった。私が新卒で就職し、実習で忙殺されていた頃だった。 ある会社に入社して一か月も経たないうちに、職場の同僚たちから嫌がらせを受け始めていた。 そのとき、ももこはその会社で小グループのリーダーをしていて、困っている私を助けてくれたのだ。 ももこが私を庇ってくれたおかげで、職場のトラブルは減り、私たちは同じ学校の出身とわかってすぐに仲良くなった。私はずっと母子家庭で育ち、父親を見たことがなかった。 他の子供たちが「お父さん」と呼んでいる姿を見て、いつも羨ましい気持ちでいっぱいだった。 そのため、私は小さい頃からどこか内向的で、自分に自信がなかった。 今、ももこが私の代わりに父に会い、追い出されるリスクを引き受けると言ってくれたことに、私は感謝してやまなかった。 これが私にとって、対人恐怖症に少しでも安らぎをもたらす救いだった。 私はももこと一緒に、母が生前教えてくれた住所を頼りに父の家を訪ねた。 目的地に到着し、二人して「わあ〜〜」と感嘆の声を上げた。 目の前には、豪邸とお金持ちの証ともいえる壮大な屋敷がそびえ立っていた。 私と母は生涯、古びた借家で暮らし、毎日ねずみやゴキブリと戦っていた。 それでも母は一度も父にお金を求めたことがなかった。 母の財布の中身など、片手の指で数えられるくらいだった。 「私は山口国光の実の娘です。家に入れてください」 ももこは早速役になりきり、母から預かったものを取り出した。 「これは母が残してくれたものです。父に見せていただければ、すぐにわかるはずです」 門の警備員は顔を見合わせたが、豪邸の門番ともなれば、これまで多くの波乱を見てきたのだろう。 「早く社長に知らせてください」 ものを渡してから、わずか十数分後、父は急ぎ足で姿を見せた。 彼の手には
父と再会した後、彼は私に視線を向けた。 「それで、こちらは…...?」 すると、ももこが私を指差して言った。「こちらは家政婦の面接に来た方で、私も門でたまたま出会った」 私は思わず驚いた。 ももこが突然態度を変え、私とは面識がないふりをしているのだ。 ももこは再び泣き始め、まるで役者のように、目を閉じるだけで涙がこぼれてくる。 見ている人が同情してしまうほどだった。 「彼女もお父さんと親子の再会をしに来たのかと思った......私はお父さんの唯一の娘じゃないのかと......うぅぅ......」 父は娘の涙を見ていられず、すぐに慰めにかかる。 「お前は父さんのたった一人の娘だ。父さんが愛したのはお前の母さんだけだ。他の人なんてどうでもいい、父さんの娘はお前だけだ」 そう言いながら、父はそっとももこの涙を袖で拭いてやった。 「もう泣くな、可愛い娘よ。父さんの心が痛むよ」 「お前も雪子と一緒に苦労してきたんだな。じゃあ、こうしよう。父さんが十軒の家を買ってやるよ。それに車も一台プレゼントだ。もう二度と苦しい生活はさせない。全部お前の名義で書くからな!」 この言葉を聞いた瞬間、私は胸が震えた。 一方で、ももこは嬉しそうににこにこしている。 父に何か説明しようと思ったが、ももこが「たった一日だけ」と約束したことを思い出した。その一日が過ぎれば、父を私に返してくれるはずだ。 だから、私はその場で何も言わず、衝動を抑え込んだ。 「お父さん、それで......私たちの家にはまだ家政婦が必要なの?」 ももこは父に、私を家に残さないようにという視線を送った。 私は拳を強く握りしめた。彼女が約束を破るとは思わなかった。 しかし、父は私を一瞥し、優しい眼差しを浮かべながら、静かに首を横に振りながら言った。 「似ている......本当にそっくりだ」 「君は結婚しているのか?」 私は父を見つめ、正直に首を横に振った。 「ここに残りなさい」 父がそう言い終えた瞬間、ももこは足元がふらついたようだった。 「お父さん~」ももこは不満げに足を踏み鳴らした。 父は理由が分からず、不思議そうにももこを見つめた。 「どうしたんだ、可愛い娘よ?」
翌朝、目を覚ますと、執事や清掃スタッフが噂話をしているのが耳に入った。 「昨日の夜、社長があの新しく来たお嬢さんに、十軒の家と五台の車を買ってあげたそうだ。すべて彼女の名義らしい」 「聞いたところによると、彼女のお母さんは昔、社長の初恋だったらしいよ。会長はあの娘をとても可愛がっていて、明日には五軒の別荘まで贈る予定だとか」 その話を聞いた途端、私はいてもたってもいられなくなった。 ももこは少しも遠慮せず、さらに贅沢な要求をエスカレートさせている。 私は布団を跳ね除け、すぐに外へと駆け出した。 庭に出ると、ももこがアクセサリーを身にまとい、豪華に装い、新しい車を見つめていた。 「ももこ!」と大声で叫び、彼女に向かって突進した。 すると、ももこの傍にいたボディガードが私の前に立ちはだかった。 「彼女の口を塞ぎなさい!」と、ももこが小声で指示を出した。 ボディガードはその命令に従い、私の口をテープで封じた。 私は目を大きく見開き、ももこを睨みつけた。 「何の騒ぎだ!」 突然、父が背後から現れた。 ももこは父を見て笑みを浮かべた。 「お父さん~」 「どうだい?父さんが買った車、気に入ったかい?」 父は私の前で足を止め、私をじっと見つめた。 「彼女に何かあったのか?」と、ももこに尋ねた。 ももこは体をくねらせ、しおらしい様子で答えた。「お父さん、彼女がさっき私を罵ったから、ボディガードに口を塞いでもらった」私はももこをじっと睨みつけ、口から漏れる声で抗議した。 「早く、早くテープを外してやれ!」 父は自分のボディガードに指示を出し、私のテープを剥がすように言った。 ボディガードは優しい笑みを浮かべ、私の顔を見つめる眼差しも穏やかで、テープを外す手も慎重だった。まるで私が痛みを感じないようにと気遣っているかのようだった。テープが外れたとき、ようやく新鮮な空気を大きく吸い込むことができた。 その時、ももこは父の後ろで「言わないで」とジェスチャーをし続けていた。 「私こそが......」 言葉を続ける間もなく、ももこがすぐに私の口を塞ぎ、別の場所に引っ張っていった。 「お父さん、ちょっと待ってて~、彼女と少し話した