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第2話

私はあれこれと悩んだ末、やはり不安が拭えなかった。

しかし、ももこの知識を駆使した説得に、私は徐々に気持ちが揺らぎ始めた。

最終的に、母が私に託したものをももこの手に渡した。

「何がどうなっても、最後には必ずお父さんにちゃんと説明してね」

「大丈夫、任せて!」

私がももこを信頼しているのには理由があった。

私たちが知り合ったのは大学卒業後だった。私が新卒で就職し、実習で忙殺されていた頃だった。

ある会社に入社して一か月も経たないうちに、職場の同僚たちから嫌がらせを受け始めていた。

そのとき、ももこはその会社で小グループのリーダーをしていて、困っている私を助けてくれたのだ。

ももこが私を庇ってくれたおかげで、職場のトラブルは減り、私たちは同じ学校の出身とわかってすぐに仲良くなった。

私はずっと母子家庭で育ち、父親を見たことがなかった。

他の子供たちが「お父さん」と呼んでいる姿を見て、いつも羨ましい気持ちでいっぱいだった。

そのため、私は小さい頃からどこか内向的で、自分に自信がなかった。

今、ももこが私の代わりに父に会い、追い出されるリスクを引き受けると言ってくれたことに、私は感謝してやまなかった。

これが私にとって、対人恐怖症に少しでも安らぎをもたらす救いだった。

私はももこと一緒に、母が生前教えてくれた住所を頼りに父の家を訪ねた。

目的地に到着し、二人して「わあ〜〜」と感嘆の声を上げた。

目の前には、豪邸とお金持ちの証ともいえる壮大な屋敷がそびえ立っていた。

私と母は生涯、古びた借家で暮らし、毎日ねずみやゴキブリと戦っていた。

それでも母は一度も父にお金を求めたことがなかった。

母の財布の中身など、片手の指で数えられるくらいだった。

「私は山口国光の実の娘です。家に入れてください」

ももこは早速役になりきり、母から預かったものを取り出した。

「これは母が残してくれたものです。父に見せていただければ、すぐにわかるはずです」

門の警備員は顔を見合わせたが、豪邸の門番ともなれば、これまで多くの波乱を見てきたのだろう。

「早く社長に知らせてください」

ものを渡してから、わずか十数分後、父は急ぎ足で姿を見せた。

彼の手には、母が手作りした匂い袋が握られていた。

ももこは肩を震わせ、涙をこぼし始めた。

父が私を見ると、一瞬表情が固まった。

次に、彼の顔に喜びの色が広がっていった。

父はゆっくりと手を伸ばし、私の顔に触れようとした。

「君は......君こそが......」

「お父さん!こっちだよ」

ももこが後ろから悔しそうに足を踏み鳴らした。

父は驚いたように振り返り、ももこを見つめた。

父はももこと私を交互に見比べた。

「君たちのどちらが雪子の子供なんだ?」

ももこの顔色は急に変わり、その場にしゃがみ込んで泣き始めた。

「お母さん、早すぎるよ!どうしてこんなに早く私を置いて行ってしまったの〜」

「父さんは私を認めたくないみたいなのに、亡くなる前直前まで父さんのことを心配してたなんて……」

「何?雪子が亡くなったのか?」

父はその言葉を聞き、暗い表情を浮かべ、ため息をついた。

「さあ、立っておくれ。どうしてもっと早く俺を訪ねてくれなかったんだ?」

父はももこを抱き起こし、二人は豪邸の前で親子の再会を果たした。

「母と私はずっと貧しい暮らしをしていて、ろくにいい生活なんてしてこなかった。毎日一食を食べられるかどうかの生活だった。本当はもっと早く来たかったけれど、母が許してくれなかった。でも母が亡くなって、頼る人がいなくなった今、ようやく来ることができたの」

父はももこの頭を優しく撫でながら言った。「よく来たな、よく来た。今日から、お前が欲しいものは何でも買ってあげるよ」

ももこは父に抱きつき、得意げな笑みを浮かべた。

二人が幸せそうに抱き合っている様子を見て、私はなぜか心にわだかまりが残った。

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