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親友が私の代わりにお嬢様になった
親友が私の代わりにお嬢様になった
Author: 村上菊丸

第1話

母が亡くなった。

病気で息を引き取った。

最期の時、母は私の手をしっかり握り、繰り返し頼んだ。

「私がいなくなったら、あなたはお父さんを探しなさい」

私は母子家庭で育ち、母と二人で暮らしていた。

自分の実父が誰なのか、今まで一切知らされていなかった。

名前も、素性も、何もわからなかった。

しかし、母が死の間際に父の名前と住所を耳元で教えてくれて、初めて知った。彼が実は社長であることを。

そして、私は私生児だということも。

母はまた、あの女――つまり正妻がようやくこの世を去った、とも言った。

証として父のもとに持っていくものを渡し、母は安らかに息を引き取った。

母は何の未練もないかのように、静かに旅立った。

私は親友の山崎ももこに、このことを話した。

「社長のお父さん?山口グループって、相当な規模だよね!」

ももこはこの話を聞くなり、ぽろぽろと涙をこぼし始めた。

「私は小さい頃から親がいなくて、両親がいる感じなんて知らないの」

泣き崩れるももこにティッシュを渡しながら、私は彼女の話を聞いていた。

「私なんて、子供のころはゴミを拾って売って、それで学校に通ってたんだよ」

「年末年始はいつも一人で街をさまよっていたしね」

「家族と一緒にいる人たちを見ると、羨ましくて仕方なかった」

ももこの涙が次々と落ち、彼女の姿はとても哀れに見えた。

ももこは両手で私の手を握りしめて言った。

「月、お願い、私にも一度だけでいいから、父親がいる感じを味わわせて」

「どうやって感じるの?」私は疑問の眼差しを向けた。

「あなたと一緒にそのお父さんに会わせて、お願い!」

「え...それは、さすがに無理じゃない?」

母がくれたものは一つしかなく、それを父に見せれば、全てがわかると言っていた。

ももこは私の困惑した様子を見て、泣きながら必死に頼み続けた。

「私は幼い頃から家族がいなくて、家族と過ごしたことなんて一日もないの」

「お願い、たった三日だけでいいから、そのお父さんの娘としていさせて」

ももこが泣きながらそう懇願するので、私は断りきれないでいた。

「一日、一日だけでいい?」

ももこは私が動じないのを見て、要求を下げた。

「一日だけ、お父さんと呼ばせて。次の日に事情を話せばいいでしょう?」

それでも、私は気が引けた。

だって、人の親を自分の親だなんて言うのは、おかしな話だ。

「……少し考えさせて」

ももこは涙を拭い、私の顔を覗き込んできた。

「あなた、会ったことあるの?そのお父さんに」

私は首を横に振った。「ない」

「じゃあ、向こうがあなたを認めるかどうか、わからないじゃない」

私は頷いた。「そう、わからない」

でも母は、私に必ず父を探すようにと言い遺したのだ。

「なら決まり!」

ももこは勢いづき、こう言った。

「あなたは私生児で、お父さんは社長さん。他にも隠し子がいるかもしれないよ?」

「大企業の家族には、どんな因縁があるかわからないもの」

ももこの話は、生き生きとしていて、私はつい引き込まれた。

「全然知らない」

ももこは指を鳴らして答えた。「財産を巡る争いさ」

「あなたが行っても、彼があなたを認めたいかわからないし、異母兄弟たちがどう思ってるかもわからない。でも、私を先に送り込めば、あなたは後ろで観察できる。お父さんや家族の反応を見られるわけ」

私はももこの話に徐々に引き込まれていった。

「そうかもね」

ももこは得意げに微笑んだ。

「もし認められなくて追い出されることになっても、顔を潰すのは私だしね。私も家族の温かさを感じられるし、あなたもリスクを避けられる。お互い得するじゃない!」

「でも……」

私はまだためらっていた。

「でも、私だって父に会ってみたい」

ももこは私の肩をしっかりと掴んで言った。

「簡単なことよ!あなたはお父さんの家で家政婦になればいいの!」

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