共有

初めての異世界人

last update 最終更新日: 2025-02-11 18:10:25

 もう空が明るい。遠くに朝焼けが見える。

 さすがに歩き続けて足が棒のようだ。半日も動き続けていたら当然か。

 ちょっと先の木々の合間に、座って休めそうな倒木がある。周辺は少し開けていて、辺りを見渡すことが出来そうだ。

 少し腰をおろしたところで罰は当たらないだろう。この森を抜けるまで、まだまだ俺は歩き続けなければならないのだから。

「あ~、疲れた。限界だよもう」

 倒木に座ろうとしたら、ひざが言うことを聞かない。体を支えることを放棄して、ドサッと崩れ落ちてしまう。

 太ももが、足の裏が、じんわりと蓄積した疲労を訴えかけてくる。

 なぜか背中まで筋肉が張っていて、上半身を丸めると楽になると気づく。

 ふぅと息を吐くと、急激な眠気に襲われた。さすがにこの状況で寝たらまずいだろうな……。

 朝を告げる鳥のさえずりが聞こえてくる。今の俺には子守歌だ。

 木々の隙間から差し込む光が、寝るな寝るなと注意してくれてるみたい。

(ステータス)

 黒川 夜

 レベル:2

 属性:闇

 HP:10

 MP:10

 攻撃力:5

 防御力:5

 敏捷性:5

 魔力:5

 眠気に負けないように、ステータスを開いてみる。

「おかえり5歳児……」

 残酷な現実を突きつけられた。

 今の俺ではスライムにすら殺されるだろう。

 先ほどまで張っていた気もショックで緩み、一瞬で眠りに落ちてしまった。

**********

 ……ザシュ ザシュ ザシュ

 何かの足音と、いつの間にか眠ってしまった自分に驚く。

「うわっ!」

 叫びながら眼を覚ます。

 音のした方に目を向けると、同じような服装をした男性が斧を持ってこちらに歩いてきている。

 長身でガタイがいい。40代後半くらいだろうか。自分とは違う緑色の短髪を見ると、異世界の人だなぁと感じてしまう。
ロックされたチャプター
GoodNovel で続きを読む
コードをスキャンしてアプリをダウンロード

関連チャプター

  • 闇属性は変態だった?転移した世界でのほほんと生きたい   邪悪な女神

    「あ~、夏休みだってのに補習なんて行きたくねぇ……」 俺――黒川 夜(くろかわ よる)は、照りつける太陽の光に目を細めながら、不満を漏らす。 高校2年の夏。数学のテストで壊滅的な点数(詳細は国家機密)を取ってしまったせいで、愛川かえで先生から補習を言い渡された。  しかも、俺だけじゃなく、同じような犠牲者があと3人いるらしい。教科ごとに分かれているせいで、各担当教師との二人きり。地獄のマンツーマンコースを強制されることに。 俺が通ってる白新高校は進学校。勉強はそこそこできるという自負がある。だが数学……てめえはダメだ。  数学とか、人生のどこで使うの……って思っちゃう。「まあ、言い訳だけどさ……はぁ……」 20分ほど歩いてようやく学校に到着。  ワイシャツの下に着ている母親がスーパーで買ってきた安物の肌着が、じっとりと汗を吸って気持ち悪い。 しぶしぶ机に教科書とノートを広げ、適当に漫画を開いて時間を潰していると── ガラガラガラッ…… 教室の扉が開く。 入ってきたのは愛川先生。そしてその後ろには……見知らぬ、異様なほど美しい金髪の女性。透き通るような肌、完璧な顔立ち、モデルどころかこの世のものとは思えないレベルの美貌。彼女は微笑みながら先生の肩にそっと手を置いている。 ……いや、先生の様子、おかしくね? 目の焦点が合っておらず、俺を見ているようでどこか別の場所を見ているみたい。 みんなからかえでちゃんの愛称で親しまれている彼女。栗色のショートカットに、教師らしいスカートタイプのスーツ姿。小動物を思わせる小柄で可愛らしい印象の先生が、なぜか今日は化け物のように感じてしまう。「黒川ぐん……ぎょうヴぁ補習し、じます。頭の悪い子はいでぃまぜん!」 ヨダレを垂らしながら、危ない薬でもやってるんじゃないかってくらい瞳孔が開いた目で俺を睨みつける愛川先生。その姿に、背筋がぞわりと粟立つ。「な、なんかやばくね……?」 絶対におかしい。あんなのかえでちゃんじゃない。  幸い、俺は窓から遠く、出口に近い席に座っている。逃げるなら今だ。自分の感覚を信じて席を立つ。  そして、一目散に走りだ……そうとした。「あら、補習はまだ終わっていませんよ?」 透き通った声が教室に響く。琴の音のように美しく、まるで脳に直接響くような、そんな声が。  金髪の

    最終更新日 : 2025-01-27
  • 闇属性は変態だった?転移した世界でのほほんと生きたい   気絶

     どれくらい時間が経ったのだろう。  まぶたの裏に、ぼんやりと光を感じる。 そうだ、俺は補習中だったはず……。  そして、金髪の美女に触れられた瞬間、気を失って……。 意識があるんだから、俺はまだ生きてるんだよな。 いや、待て。この感覚、なんか分かるぞ。 ──夢だ! 漫画読んでて寝落ちしたに違いない! 安心しながら、ゆっくり目を開ける……というより、目を覚ますのほうが正しいか。あんな美女、想像の中でしかありえないもんな。ははは……。「は?」 目の前には、何もない光に包まれた世界が広がっていた。  地面もない、壁もない。ただ、眩い光の空間。  そんな中で、どういう原理か分からないが俺は立っていた。   「あれ、俺やっぱ死んだ?」 両手はある、足もある、服も着てるし声も出る。  これが天国ってところなのかな。「おーい、誰かいませんか~? さとしおじいちゃーん!」 大好だったさとしおじいちゃんなら、きっと天国でたくさん友人を作って楽しく暮らしているに違いない。もしかしたらと思った俺は、死んだ祖父の名前を呼んでみた。  しかし、返事はない。その時、背後から声がした。「あら、目が覚めたんですね?」 ──あの美女の声だ。  優しく、心に染み渡るような、俺にとっては生まれて初めて恐怖を感じた声だった。 背筋が凍る。全身が勝手に震えだし、汗が一気に噴き出す。 今回は体の自由は奪われていないようだ。なぜか振り返ろうとする体を全力で否定し、前に向かって走りだす。 光の中を走る。 どこまでも、どこまでも、後ろの恐怖から逃げるために。 心臓が痛い、呼吸が乱れる。 それでも走る。 もう限界だと思ったその時、前方にひときわ強く輝く光が見えた。「で……出口か!?」 最後の力を振り絞り、光へと飛び込む。「あら、いらっしゃい」 そして、俺は膝から崩れ落ちた。世界中の男性を魅了してしまいそうな美しい笑みを浮かべた金髪の美女が、まばゆい光の中から現れたのだ。「体育の補習ではなかったはずですけど、体を動かすのが好きなのかしら?」 美女は口角を上げ、くすりと笑う。「はぁ……ぜぇ……はぁ……ぜぇ……。な、なんですかあなたは?」 もう走れない。逃げれないのなら、対話を試みるしかない。全身の力が抜けるのを感じながら、俺は問いかけた。「あ

    最終更新日 : 2025-01-27
  • 闇属性は変態だった?転移した世界でのほほんと生きたい   異世界転移

    「さて、説明してもいいですか? 嫌と言われてもしますけどね」 相変わらずの微笑みを浮かべたまま、女神は話を続ける。 どうやら俺はグリードフィルという異世界へ行かなければならないらしい。そこには巨大な大陸があり、魔人族・獣人族・人族・巨人族の四つの種族が、それぞれ独自の国を築きながら暮らしているそうだ。  ただし、種族間の争いは絶えず、国境付近では小規模な戦争が常に勃発している。そして現在、各勢力の力関係はほぼ拮抗状態にあるとのこと。  俺は人族として転生し、4つの国を統一する手助けをしなければならないらしい。「あなたには人族として転生してもらい、四つの国を統一する手助けをしていただきます」「……いやいや待て待て、俺が? どうやって?」「それはあなた次第ですよ。方法は一つではありませんから、好きにやってください」 完全に他人事のような口ぶりだ。おまけに、めちゃくちゃ大変そうな役目を押しつけられている。「ちなみに、言葉は?」「通じるようにしてありますので、ご安心ください。あなたの得意なギャグも、ある程度は現地の言葉に変換されて伝わりますよ? 面白いと思われるかは分かりませんけどね」 おい、この女神……俺のことバカにしたよな?「ちなみに断ったら?」「断れませんよ?」 女神はくすくすと笑いながら言う。。「ここから先は強制です。あなたが異世界で何もしなくても、寿命が尽きれば終わり。逆に、統一に成功すれば、あなたを元の世界に戻し、補習に復帰させてあげます」「戻るだけかよ……」「それと、ちょっとだけ知能レベルを上げてあげましょうか? そうすればもっと面白いギャグが言えるようになるかもしれませんよ?」「……絶対バカにしてるだろ」 じろりと女神を睨むが、当の本人は涼しい顔だ。「さて、それじゃあ転移の準備をしましょうか。外見はそのままに、グリードフィルで生きていけるよう属性を身に宿した体に作り変わります」 次の瞬間、俺の体が光に包まれる。眩しさに目を細めながら、ふと気づく。 ──服が変わってる!? 麻を編んだような、通気性の良い長袖の上着とズボン。まるでファンタジー世界の農民みたいな格好だ。  控えめに言ってダサイが、まあしょうがないだろう。「さあ、これで異世界転移の準備は完了しました。向こうの生活に合わせて、服装も少し変更しておきまし

    最終更新日 : 2025-01-27
  • 闇属性は変態だった?転移した世界でのほほんと生きたい   新生活

    「それでですねー、新しい世界ではレベルとステータスという概念が存在します」 女神がさも当然のように言う。 なに、ステータスだと!?  ゲームとかでよく見る、あの!?  もしかしてこれ、ちょっと面白いんじゃね!?  俺、ラッキーか!? ワクワクしながら、勢いよく叫ぶ。「ステータス!!」 その瞬間、脳内に数値が浮かび上がるような不思議な感覚が広がっていく。 黒川 夜  レベル:1  属性:闇 HP:10  MP:10  攻撃力:5  防御力:5  敏捷性:5  魔力:5 装備  ・村人の服  ・村人のズボン  ・麻紐のベルト  ・スーパーの肌着  ・クマ模様の靴下(水色)  ・スーパーのボクサーパンツ  ・薄汚れたシューズ(学校指定)  ・麻の袋(大銀貨30枚) スキル  ・シャドークロー レベル1「おぉ……」 目の前に広がる数値の羅列。  これは現実世界では味わえない感覚だ。 装備の下のほうは見なかったことにしよう。  クマ模様の靴下とか、異世界に持ち込むアイテムじゃないだろ俺……。 興奮を抑えきれず、ガッツポーズをしていると──「あら、話は最後まで聞いてほしかったのですが」 女神が微笑んでいた。「ステータスを確認するときは、声に出さずに念じるだけで大丈夫ですよ?」「……あっ」「だって、そんな大声で『ステータス!!』なんて叫んでいたら恥ずかしいじゃないですか? みっともないですよ、黒川さん」 言い方よ……。完全にバカにしてるだろ。「ちなみに、人族の成人男性の平均的なレベル1のステータスは、HPとMPが100、その他の能力値は25程度でしょうか」「……え?」「黒川さんは転移者ですから、少し優遇されているはずなのですが……どうでした?」 ちょっと待て。何か、聞き捨てならないことを言われた気がする。「あの、俺のステータス……かなり低いような気がするんですが……?」 まさか、何かの間違いか?  おかしいだろ。女神の言う通りなら、もっと凄い数値が出るはずだ。「どれどれ、見てみましょうか……」 女神が俺のステータスを覗き込む。「あらら、あらー。あぁーらららら。……ぷぷっ」「今笑ったよな?」 あらあらっておい……。  異世界転生とか転移ってアニメとかでたまに見るけど、大丈夫なの

    最終更新日 : 2025-01-27
  • 闇属性は変態だった?転移した世界でのほほんと生きたい   スライム

     近くの茂みが揺れる音が耳に入った。  警戒しながら茂みを注視していると、地面をズリズリと縦横無尽に変形させながら、こちらへ向かってくる物体が見えた。「スライム!?」 そう、あのスライムだ。  流動性の体を持ち、丸く半透明な姿に中心部のコアが輝いている。  どうやら体内に何かの植物を取り込んでおり、ゆっくりと消化しているらしい。  動きは鈍く、危険性も低そうに見えた。直径はバスケットボールより少し大きい程度。「いけるかな?」 手に持っていた石を思いっきりスライムに投げつけた。 ビュッ! バチュン! 核を狙って投げたはずの石は、スライムの表面から約5cmほどのところまで食い込み、そのまま地面に落下。  すると、攻撃を受けたと認識したスライムは、頭頂部を地面側に凹ませ、勢いよく体を伸ばして体当たりを仕掛けてきた。その体当たりは、時速約120kmにも達するかのようなスピードで、直径40cmほどの体液で満たされた球状の物体として突進してくるのだ。「ヒッ……!」 運よく体に掠ることなく、反射神経のみで体当たりを交わすことに成功した……が、直撃していたら5歳児程度のステータスでは大怪我をしていた可能性がある。人生で初めて冷や汗をかくという経験をした。と同時に、思考を停止し一目散に逃げだす。「もっと距離が近かったら、とんでもないことになってた……」 まずはモンスターの脅威を再認識し、どうにかスライムを倒せる作戦を練らなければならない。  あまりにステータスが低いため、人族の成人男性なら力任せに踏みつけるだけで倒せるであろうスライムが、俺にとっては強敵そのものなのだ。  ちなみに、女神が特典かなにかで授けてくれたのか、俺の頭にスライムの情報がある。モンスター図鑑てきなやつかもしれない。  スライムはその核を破壊すれば、体液に含まれる消化能力が消滅する魔力生命体だという。この世界では常識のようだが、俺には到底信じがたい話だ。  ……知らない知識を当然のように知ってるって、なんか怖いね。「近づくと体当たりが来るから、遠くからなんとかしないと……」 周囲を見回すと、ひらめいた。  小石で5cm程度しか削れなかったのなら、樹上からもっと大きな石を落として、核ごと叩き潰せばいいんだ。  俺は直径20cmほどの石を拾い、木に登ってスライムの待ち伏せ

    最終更新日 : 2025-01-27
  • 闇属性は変態だった?転移した世界でのほほんと生きたい   シャドークロー

    「しっかし、せっかく魔法の世界でスキルが使えるっていうのにさー。木の上から飛び降りて踏み潰す方が強いってどうなの?」 辛うじて成功したとはいえ、先ほどのスライム討伐は苦い記憶だ。ぼそりと独り言をつぶやきつつ林を散策していく。危険を冒す気にはなれず、視界の悪い木々の間ではなく、少し開けた小道をキョロキョロと周囲を観察しながら進む。  あのとき、着地に失敗して足を骨折し、もしあのスライムに完全に捕まっていたら……。じわじわと消化されていたかもしれないという事実には、どうしても目を背けたくなる。「シャドークロウねぇ。どうしたものやら。もしかして、木は切れなかったけどモンスターにはすんごく有効な属性だったり?」  ふいに芽生えた謎の可能性に、わずかばかり心を躍らせる。再びスライムに遭遇すれば、今度こそ俺の『唯一の闇属性』が輝くかもしれないという、無茶な期待を抱いてみたのだ。(体をへこませたら体当たりが来ると予測できるし、一回くら試してみてもいいかも……) 樹上からのとんでもない滑落事故なんて、もう水に流してしまおう。鼻歌交じりに楽観的な気持ちで林の中をどんどん歩いていく。周囲には相変わらず樹木しか見えず、街がどこにあるのかも全く見当がつかない。 そして、増え続ける空腹感に耐えきれなくなったその時、ふと肉厚な葉を持つ一本の樹木が目に留まった。「実の生ってる木も見当たらないし、いっちょこれ、つまんでみますか? ほんのちょっと食べて具合が悪くなったら捨てればいいし。うん、それでいこう!」 ここが異世界だという事実を完全に忘れてしまえば、葉っぱに毒がある樹木なんてそう多くはない。猛毒の恐れを無視した黒川式毒見方法を考案し、少しかじってみる。「おや? レモンの皮のような風味に、甘みは無いが酸味はある。食べれなくは無い……かもな。一発目で当たり引いちゃったかこれ?」 もし本当に猛毒が含まれていたとしたら、1時間ほどで効果が出るだろう。食べかけの葉と、追加で10枚ほど千切ってポッケにしまった。  腹が減ったらどうせ死ぬしと、自嘲気味に笑いながら。 ……そのまま歩き続けて5分くらいたったかな。  うん、こりゃ毒だ。間違いない。「唇と口の中と、葉っぱが通ったであろう内臓の至る所に痒みが生じているな。よし、この葉はカユカユの木の葉と命名し、捨てよう!」 かぶれ

    最終更新日 : 2025-01-27
  • 闇属性は変態だった?転移した世界でのほほんと生きたい   新たな敵

     かすかな振動とともに、シャドークローが触れた部分の汚れや埃を落としていく。なんと、木登り中についた汚れが、シャドークローの微妙な摩擦で綺麗になっていくのだ。  スキルを解除して左腕に手を触れると、なんともスベスベになっており、角質さえ削ぎ落としているようだった。「これは街で美顔マッサージ店なんて出したら流行るかもしれない……。って! なんだこの使い方は! 美容じゃなくてモンスター退治に役立てよっ!」 あまりの情けなさに落ち込んでいると、お腹が痛くなってきた。  先ほど食べたカユカユの木の葉の影響だろう。「いたたたたたた……。出るぞこれは……!」 すぐさま茂みに入り、周囲にモンスターがいないことを確認。身構えながら用を足す。   だが、トイレットペーパーなんてあるはずもない。仕方なく、近くの大きめの葉っぱで尻を拭こうと試みたその時、ふとひらめいた。シャドークローなら、手で直接触れずに尻が拭けるんじゃね……と。(右手 シャドークロー) ジジジジジジジ…… 葉っぱで拭くと切れる可能性があるし、面積が狭いから最悪な状況になる恐れがある。  しかしシャドークローなら汚れも綺麗さっぱり。紙で拭くよりいいかもしれない。  ……そう、これはもはやウォシュレット。  シャドークロー改めウォシュレットクローだ!「これはいい使い方を思いついたぞ! ……って、こんなんでいいのか?」 自身のスキルの不甲斐無さに、素直に喜べなかった。「まずいな。日が暮れてきたぞ」 野宿をしてたらスライムに溶かされて死んじゃってました……では済まされない。  最悪な未来を想像し、夜に怯え始める。  早急に街を見つけるため、オレンジ色に染まり始めた森の中を早足に進んでいく。 この世界にも夜はくるらしい。とうぜん夜行性のモンスターも存在するだろう。  視界の悪い夜は、昼間とは危険度が大幅に違う。 女神が言っていた通り、この辺りは人族成人男性基準では危険なモンスターも少ないはずだが、5歳児レベルの俺には到底太刀打ちできそうにない。  半日以上も食事を取っていないうえ、水分もほとんど摂っていないため、体調はかなり危うい状態だ。「……いや、どうすんだこれ?」 やがて、辺りは漆黒の闇に包まれてしまった。自分の手のひらさえも見えないほどの暗闇。  木々の隙間からも、かすか

    最終更新日 : 2025-01-27
  • 闇属性は変態だった?転移した世界でのほほんと生きたい   ミドルハウンド

     暗闇でギラリと光る赤い瞳がこちらを見つめている。距離は5メートル以上も離れているが、油断はできない。  俺のステータスは5歳児並みらしいからな。走って逃げたところで、アニメみたいに尻を噛まれる。  いや、それですめばいい。捕まったら間違いなく食い殺されるだろう。生きたまま食われるなんて考えたくもない。(犬と対峙した時は、目線を逸らしてはいけないって本で読んだことあるな……) 精一杯の睨みを効かせながら、ゆっくりと後ろに下がっていく。(右手 シャドークロー) 万が一のためにスキルを発動させる。すると、その瞬間、先ほどまで数歩先も見えなかった視界が驚くほど広がった。  もちろん、夜の闇は変わらない。しかし、まるで月や星の光が増したかのように、しっかりと目の前のミドルハウンドの姿が掴めるようになった。 昼に比べても半分ほどの視界の広がりだ。  その変化に驚きながら、思わず声を発してしまった。「え!?」 その声を皮切りに、ミドルハウンドが一気に距離を詰めてきた。「うわああああ!」 俺の喉元を目がけて獣が飛び上がる。  牙を突き立てようとした瞬間、とっさに右手のシャドークローを前に突きだした。 ズジュウウウウ! 痛みを覚悟して目を閉じてしまったが、自分の身体が無事であることに思わず驚く。  恐る恐る目を開けると、目の前には首から上を失ったミドルハウンドが横たわっていた。「やった! やはり俺のスキルはモンスター用だったんだ!」 命の危機を回避した俺は安堵し、その場にへたり込んでしまう。  同時に猛烈な空腹感に襲われた。「これ、食べちゃおっか……」 右手のシャドークローを当てると、昼間の光景が嘘のようにモンスターの体を切り裂いていく。  自炊経験はないが、なんとなく皮や骨を削ぎ落とし、可食部を切り分ける。  右手にシャドークロー(ナイフ)、左手にフォーク(素手)。テーブルマナーなど無視だ。さっそく生肉を食べてみた。(この獣臭さがジビエってやつか? 臭すぎるけど、空腹よりはマシだ。吐くのを我慢すれば、なんとか食えるな) 血がしたたる生肉のおかげで、飢えと渇きをしのぐことができた。「百獣の王黒川……ってか?」 レバーの部分を口に含み、得意げにニヤリと笑う。  命のありがたみを嚙みしめるとき、ライオンさんもこんな気持ちなんだろ

    最終更新日 : 2025-01-27

最新チャプター

  • 闇属性は変態だった?転移した世界でのほほんと生きたい   初めての異世界人

     もう空が明るい。遠くに朝焼けが見える。 さすがに歩き続けて足が棒のようだ。半日も動き続けていたら当然か。 ちょっと先の木々の合間に、座って休めそうな倒木がある。周辺は少し開けていて、辺りを見渡すことが出来そうだ。 少し腰をおろしたところで罰は当たらないだろう。この森を抜けるまで、まだまだ俺は歩き続けなければならないのだから。「あ~、疲れた。限界だよもう」 倒木に座ろうとしたら、ひざが言うことを聞かない。体を支えることを放棄して、ドサッと崩れ落ちてしまう。 太ももが、足の裏が、じんわりと蓄積した疲労を訴えかけてくる。 なぜか背中まで筋肉が張っていて、上半身を丸めると楽になると気づく。 ふぅと息を吐くと、急激な眠気に襲われた。さすがにこの状況で寝たらまずいだろうな……。 朝を告げる鳥のさえずりが聞こえてくる。今の俺には子守歌だ。 木々の隙間から差し込む光が、寝るな寝るなと注意してくれてるみたい。(ステータス) 黒川 夜 レベル:2 属性:闇 HP:10 MP:10 攻撃力:5 防御力:5 敏捷性:5 魔力:5 眠気に負けないように、ステータスを開いてみる。「おかえり5歳児……」 残酷な現実を突きつけられた。 今の俺ではスライムにすら殺されるだろう。 先ほどまで張っていた気もショックで緩み、一瞬で眠りに落ちてしまった。********** ……ザシュ ザシュ ザシュ 何かの足音と、いつの間にか眠ってしまった自分に驚く。「うわっ!」 叫びながら眼を覚ます。 音のした方に目を向けると、同じような服装をした男性が斧を持ってこちらに歩いてきている。 長身でガタイがいい。40代後半くらいだろうか。自分とは違う緑色の短髪を見ると、異世界の人だなぁと感じてしまう。

  • 闇属性は変態だった?転移した世界でのほほんと生きたい   ミドルハウンド

     暗闇でギラリと光る赤い瞳がこちらを見つめている。距離は5メートル以上も離れているが、油断はできない。  俺のステータスは5歳児並みらしいからな。走って逃げたところで、アニメみたいに尻を噛まれる。  いや、それですめばいい。捕まったら間違いなく食い殺されるだろう。生きたまま食われるなんて考えたくもない。(犬と対峙した時は、目線を逸らしてはいけないって本で読んだことあるな……) 精一杯の睨みを効かせながら、ゆっくりと後ろに下がっていく。(右手 シャドークロー) 万が一のためにスキルを発動させる。すると、その瞬間、先ほどまで数歩先も見えなかった視界が驚くほど広がった。  もちろん、夜の闇は変わらない。しかし、まるで月や星の光が増したかのように、しっかりと目の前のミドルハウンドの姿が掴めるようになった。 昼に比べても半分ほどの視界の広がりだ。  その変化に驚きながら、思わず声を発してしまった。「え!?」 その声を皮切りに、ミドルハウンドが一気に距離を詰めてきた。「うわああああ!」 俺の喉元を目がけて獣が飛び上がる。  牙を突き立てようとした瞬間、とっさに右手のシャドークローを前に突きだした。 ズジュウウウウ! 痛みを覚悟して目を閉じてしまったが、自分の身体が無事であることに思わず驚く。  恐る恐る目を開けると、目の前には首から上を失ったミドルハウンドが横たわっていた。「やった! やはり俺のスキルはモンスター用だったんだ!」 命の危機を回避した俺は安堵し、その場にへたり込んでしまう。  同時に猛烈な空腹感に襲われた。「これ、食べちゃおっか……」 右手のシャドークローを当てると、昼間の光景が嘘のようにモンスターの体を切り裂いていく。  自炊経験はないが、なんとなく皮や骨を削ぎ落とし、可食部を切り分ける。  右手にシャドークロー(ナイフ)、左手にフォーク(素手)。テーブルマナーなど無視だ。さっそく生肉を食べてみた。(この獣臭さがジビエってやつか? 臭すぎるけど、空腹よりはマシだ。吐くのを我慢すれば、なんとか食えるな) 血がしたたる生肉のおかげで、飢えと渇きをしのぐことができた。「百獣の王黒川……ってか?」 レバーの部分を口に含み、得意げにニヤリと笑う。  命のありがたみを嚙みしめるとき、ライオンさんもこんな気持ちなんだろ

  • 闇属性は変態だった?転移した世界でのほほんと生きたい   新たな敵

     かすかな振動とともに、シャドークローが触れた部分の汚れや埃を落としていく。なんと、木登り中についた汚れが、シャドークローの微妙な摩擦で綺麗になっていくのだ。  スキルを解除して左腕に手を触れると、なんともスベスベになっており、角質さえ削ぎ落としているようだった。「これは街で美顔マッサージ店なんて出したら流行るかもしれない……。って! なんだこの使い方は! 美容じゃなくてモンスター退治に役立てよっ!」 あまりの情けなさに落ち込んでいると、お腹が痛くなってきた。  先ほど食べたカユカユの木の葉の影響だろう。「いたたたたたた……。出るぞこれは……!」 すぐさま茂みに入り、周囲にモンスターがいないことを確認。身構えながら用を足す。   だが、トイレットペーパーなんてあるはずもない。仕方なく、近くの大きめの葉っぱで尻を拭こうと試みたその時、ふとひらめいた。シャドークローなら、手で直接触れずに尻が拭けるんじゃね……と。(右手 シャドークロー) ジジジジジジジ…… 葉っぱで拭くと切れる可能性があるし、面積が狭いから最悪な状況になる恐れがある。  しかしシャドークローなら汚れも綺麗さっぱり。紙で拭くよりいいかもしれない。  ……そう、これはもはやウォシュレット。  シャドークロー改めウォシュレットクローだ!「これはいい使い方を思いついたぞ! ……って、こんなんでいいのか?」 自身のスキルの不甲斐無さに、素直に喜べなかった。「まずいな。日が暮れてきたぞ」 野宿をしてたらスライムに溶かされて死んじゃってました……では済まされない。  最悪な未来を想像し、夜に怯え始める。  早急に街を見つけるため、オレンジ色に染まり始めた森の中を早足に進んでいく。 この世界にも夜はくるらしい。とうぜん夜行性のモンスターも存在するだろう。  視界の悪い夜は、昼間とは危険度が大幅に違う。 女神が言っていた通り、この辺りは人族成人男性基準では危険なモンスターも少ないはずだが、5歳児レベルの俺には到底太刀打ちできそうにない。  半日以上も食事を取っていないうえ、水分もほとんど摂っていないため、体調はかなり危うい状態だ。「……いや、どうすんだこれ?」 やがて、辺りは漆黒の闇に包まれてしまった。自分の手のひらさえも見えないほどの暗闇。  木々の隙間からも、かすか

  • 闇属性は変態だった?転移した世界でのほほんと生きたい   シャドークロー

    「しっかし、せっかく魔法の世界でスキルが使えるっていうのにさー。木の上から飛び降りて踏み潰す方が強いってどうなの?」 辛うじて成功したとはいえ、先ほどのスライム討伐は苦い記憶だ。ぼそりと独り言をつぶやきつつ林を散策していく。危険を冒す気にはなれず、視界の悪い木々の間ではなく、少し開けた小道をキョロキョロと周囲を観察しながら進む。  あのとき、着地に失敗して足を骨折し、もしあのスライムに完全に捕まっていたら……。じわじわと消化されていたかもしれないという事実には、どうしても目を背けたくなる。「シャドークロウねぇ。どうしたものやら。もしかして、木は切れなかったけどモンスターにはすんごく有効な属性だったり?」  ふいに芽生えた謎の可能性に、わずかばかり心を躍らせる。再びスライムに遭遇すれば、今度こそ俺の『唯一の闇属性』が輝くかもしれないという、無茶な期待を抱いてみたのだ。(体をへこませたら体当たりが来ると予測できるし、一回くら試してみてもいいかも……) 樹上からのとんでもない滑落事故なんて、もう水に流してしまおう。鼻歌交じりに楽観的な気持ちで林の中をどんどん歩いていく。周囲には相変わらず樹木しか見えず、街がどこにあるのかも全く見当がつかない。 そして、増え続ける空腹感に耐えきれなくなったその時、ふと肉厚な葉を持つ一本の樹木が目に留まった。「実の生ってる木も見当たらないし、いっちょこれ、つまんでみますか? ほんのちょっと食べて具合が悪くなったら捨てればいいし。うん、それでいこう!」 ここが異世界だという事実を完全に忘れてしまえば、葉っぱに毒がある樹木なんてそう多くはない。猛毒の恐れを無視した黒川式毒見方法を考案し、少しかじってみる。「おや? レモンの皮のような風味に、甘みは無いが酸味はある。食べれなくは無い……かもな。一発目で当たり引いちゃったかこれ?」 もし本当に猛毒が含まれていたとしたら、1時間ほどで効果が出るだろう。食べかけの葉と、追加で10枚ほど千切ってポッケにしまった。  腹が減ったらどうせ死ぬしと、自嘲気味に笑いながら。 ……そのまま歩き続けて5分くらいたったかな。  うん、こりゃ毒だ。間違いない。「唇と口の中と、葉っぱが通ったであろう内臓の至る所に痒みが生じているな。よし、この葉はカユカユの木の葉と命名し、捨てよう!」 かぶれ

  • 闇属性は変態だった?転移した世界でのほほんと生きたい   スライム

     近くの茂みが揺れる音が耳に入った。  警戒しながら茂みを注視していると、地面をズリズリと縦横無尽に変形させながら、こちらへ向かってくる物体が見えた。「スライム!?」 そう、あのスライムだ。  流動性の体を持ち、丸く半透明な姿に中心部のコアが輝いている。  どうやら体内に何かの植物を取り込んでおり、ゆっくりと消化しているらしい。  動きは鈍く、危険性も低そうに見えた。直径はバスケットボールより少し大きい程度。「いけるかな?」 手に持っていた石を思いっきりスライムに投げつけた。 ビュッ! バチュン! 核を狙って投げたはずの石は、スライムの表面から約5cmほどのところまで食い込み、そのまま地面に落下。  すると、攻撃を受けたと認識したスライムは、頭頂部を地面側に凹ませ、勢いよく体を伸ばして体当たりを仕掛けてきた。その体当たりは、時速約120kmにも達するかのようなスピードで、直径40cmほどの体液で満たされた球状の物体として突進してくるのだ。「ヒッ……!」 運よく体に掠ることなく、反射神経のみで体当たりを交わすことに成功した……が、直撃していたら5歳児程度のステータスでは大怪我をしていた可能性がある。人生で初めて冷や汗をかくという経験をした。と同時に、思考を停止し一目散に逃げだす。「もっと距離が近かったら、とんでもないことになってた……」 まずはモンスターの脅威を再認識し、どうにかスライムを倒せる作戦を練らなければならない。  あまりにステータスが低いため、人族の成人男性なら力任せに踏みつけるだけで倒せるであろうスライムが、俺にとっては強敵そのものなのだ。  ちなみに、女神が特典かなにかで授けてくれたのか、俺の頭にスライムの情報がある。モンスター図鑑てきなやつかもしれない。  スライムはその核を破壊すれば、体液に含まれる消化能力が消滅する魔力生命体だという。この世界では常識のようだが、俺には到底信じがたい話だ。  ……知らない知識を当然のように知ってるって、なんか怖いね。「近づくと体当たりが来るから、遠くからなんとかしないと……」 周囲を見回すと、ひらめいた。  小石で5cm程度しか削れなかったのなら、樹上からもっと大きな石を落として、核ごと叩き潰せばいいんだ。  俺は直径20cmほどの石を拾い、木に登ってスライムの待ち伏せ

  • 闇属性は変態だった?転移した世界でのほほんと生きたい   新生活

    「それでですねー、新しい世界ではレベルとステータスという概念が存在します」 女神がさも当然のように言う。 なに、ステータスだと!?  ゲームとかでよく見る、あの!?  もしかしてこれ、ちょっと面白いんじゃね!?  俺、ラッキーか!? ワクワクしながら、勢いよく叫ぶ。「ステータス!!」 その瞬間、脳内に数値が浮かび上がるような不思議な感覚が広がっていく。 黒川 夜  レベル:1  属性:闇 HP:10  MP:10  攻撃力:5  防御力:5  敏捷性:5  魔力:5 装備  ・村人の服  ・村人のズボン  ・麻紐のベルト  ・スーパーの肌着  ・クマ模様の靴下(水色)  ・スーパーのボクサーパンツ  ・薄汚れたシューズ(学校指定)  ・麻の袋(大銀貨30枚) スキル  ・シャドークロー レベル1「おぉ……」 目の前に広がる数値の羅列。  これは現実世界では味わえない感覚だ。 装備の下のほうは見なかったことにしよう。  クマ模様の靴下とか、異世界に持ち込むアイテムじゃないだろ俺……。 興奮を抑えきれず、ガッツポーズをしていると──「あら、話は最後まで聞いてほしかったのですが」 女神が微笑んでいた。「ステータスを確認するときは、声に出さずに念じるだけで大丈夫ですよ?」「……あっ」「だって、そんな大声で『ステータス!!』なんて叫んでいたら恥ずかしいじゃないですか? みっともないですよ、黒川さん」 言い方よ……。完全にバカにしてるだろ。「ちなみに、人族の成人男性の平均的なレベル1のステータスは、HPとMPが100、その他の能力値は25程度でしょうか」「……え?」「黒川さんは転移者ですから、少し優遇されているはずなのですが……どうでした?」 ちょっと待て。何か、聞き捨てならないことを言われた気がする。「あの、俺のステータス……かなり低いような気がするんですが……?」 まさか、何かの間違いか?  おかしいだろ。女神の言う通りなら、もっと凄い数値が出るはずだ。「どれどれ、見てみましょうか……」 女神が俺のステータスを覗き込む。「あらら、あらー。あぁーらららら。……ぷぷっ」「今笑ったよな?」 あらあらっておい……。  異世界転生とか転移ってアニメとかでたまに見るけど、大丈夫なの

  • 闇属性は変態だった?転移した世界でのほほんと生きたい   異世界転移

    「さて、説明してもいいですか? 嫌と言われてもしますけどね」 相変わらずの微笑みを浮かべたまま、女神は話を続ける。 どうやら俺はグリードフィルという異世界へ行かなければならないらしい。そこには巨大な大陸があり、魔人族・獣人族・人族・巨人族の四つの種族が、それぞれ独自の国を築きながら暮らしているそうだ。  ただし、種族間の争いは絶えず、国境付近では小規模な戦争が常に勃発している。そして現在、各勢力の力関係はほぼ拮抗状態にあるとのこと。  俺は人族として転生し、4つの国を統一する手助けをしなければならないらしい。「あなたには人族として転生してもらい、四つの国を統一する手助けをしていただきます」「……いやいや待て待て、俺が? どうやって?」「それはあなた次第ですよ。方法は一つではありませんから、好きにやってください」 完全に他人事のような口ぶりだ。おまけに、めちゃくちゃ大変そうな役目を押しつけられている。「ちなみに、言葉は?」「通じるようにしてありますので、ご安心ください。あなたの得意なギャグも、ある程度は現地の言葉に変換されて伝わりますよ? 面白いと思われるかは分かりませんけどね」 おい、この女神……俺のことバカにしたよな?「ちなみに断ったら?」「断れませんよ?」 女神はくすくすと笑いながら言う。。「ここから先は強制です。あなたが異世界で何もしなくても、寿命が尽きれば終わり。逆に、統一に成功すれば、あなたを元の世界に戻し、補習に復帰させてあげます」「戻るだけかよ……」「それと、ちょっとだけ知能レベルを上げてあげましょうか? そうすればもっと面白いギャグが言えるようになるかもしれませんよ?」「……絶対バカにしてるだろ」 じろりと女神を睨むが、当の本人は涼しい顔だ。「さて、それじゃあ転移の準備をしましょうか。外見はそのままに、グリードフィルで生きていけるよう属性を身に宿した体に作り変わります」 次の瞬間、俺の体が光に包まれる。眩しさに目を細めながら、ふと気づく。 ──服が変わってる!? 麻を編んだような、通気性の良い長袖の上着とズボン。まるでファンタジー世界の農民みたいな格好だ。  控えめに言ってダサイが、まあしょうがないだろう。「さあ、これで異世界転移の準備は完了しました。向こうの生活に合わせて、服装も少し変更しておきまし

  • 闇属性は変態だった?転移した世界でのほほんと生きたい   気絶

     どれくらい時間が経ったのだろう。  まぶたの裏に、ぼんやりと光を感じる。 そうだ、俺は補習中だったはず……。  そして、金髪の美女に触れられた瞬間、気を失って……。 意識があるんだから、俺はまだ生きてるんだよな。 いや、待て。この感覚、なんか分かるぞ。 ──夢だ! 漫画読んでて寝落ちしたに違いない! 安心しながら、ゆっくり目を開ける……というより、目を覚ますのほうが正しいか。あんな美女、想像の中でしかありえないもんな。ははは……。「は?」 目の前には、何もない光に包まれた世界が広がっていた。  地面もない、壁もない。ただ、眩い光の空間。  そんな中で、どういう原理か分からないが俺は立っていた。   「あれ、俺やっぱ死んだ?」 両手はある、足もある、服も着てるし声も出る。  これが天国ってところなのかな。「おーい、誰かいませんか~? さとしおじいちゃーん!」 大好だったさとしおじいちゃんなら、きっと天国でたくさん友人を作って楽しく暮らしているに違いない。もしかしたらと思った俺は、死んだ祖父の名前を呼んでみた。  しかし、返事はない。その時、背後から声がした。「あら、目が覚めたんですね?」 ──あの美女の声だ。  優しく、心に染み渡るような、俺にとっては生まれて初めて恐怖を感じた声だった。 背筋が凍る。全身が勝手に震えだし、汗が一気に噴き出す。 今回は体の自由は奪われていないようだ。なぜか振り返ろうとする体を全力で否定し、前に向かって走りだす。 光の中を走る。 どこまでも、どこまでも、後ろの恐怖から逃げるために。 心臓が痛い、呼吸が乱れる。 それでも走る。 もう限界だと思ったその時、前方にひときわ強く輝く光が見えた。「で……出口か!?」 最後の力を振り絞り、光へと飛び込む。「あら、いらっしゃい」 そして、俺は膝から崩れ落ちた。世界中の男性を魅了してしまいそうな美しい笑みを浮かべた金髪の美女が、まばゆい光の中から現れたのだ。「体育の補習ではなかったはずですけど、体を動かすのが好きなのかしら?」 美女は口角を上げ、くすりと笑う。「はぁ……ぜぇ……はぁ……ぜぇ……。な、なんですかあなたは?」 もう走れない。逃げれないのなら、対話を試みるしかない。全身の力が抜けるのを感じながら、俺は問いかけた。「あ

  • 闇属性は変態だった?転移した世界でのほほんと生きたい   邪悪な女神

    「あ~、夏休みだってのに補習なんて行きたくねぇ……」 俺――黒川 夜(くろかわ よる)は、照りつける太陽の光に目を細めながら、不満を漏らす。 高校2年の夏。数学のテストで壊滅的な点数(詳細は国家機密)を取ってしまったせいで、愛川かえで先生から補習を言い渡された。  しかも、俺だけじゃなく、同じような犠牲者があと3人いるらしい。教科ごとに分かれているせいで、各担当教師との二人きり。地獄のマンツーマンコースを強制されることに。 俺が通ってる白新高校は進学校。勉強はそこそこできるという自負がある。だが数学……てめえはダメだ。  数学とか、人生のどこで使うの……って思っちゃう。「まあ、言い訳だけどさ……はぁ……」 20分ほど歩いてようやく学校に到着。  ワイシャツの下に着ている母親がスーパーで買ってきた安物の肌着が、じっとりと汗を吸って気持ち悪い。 しぶしぶ机に教科書とノートを広げ、適当に漫画を開いて時間を潰していると── ガラガラガラッ…… 教室の扉が開く。 入ってきたのは愛川先生。そしてその後ろには……見知らぬ、異様なほど美しい金髪の女性。透き通るような肌、完璧な顔立ち、モデルどころかこの世のものとは思えないレベルの美貌。彼女は微笑みながら先生の肩にそっと手を置いている。 ……いや、先生の様子、おかしくね? 目の焦点が合っておらず、俺を見ているようでどこか別の場所を見ているみたい。 みんなからかえでちゃんの愛称で親しまれている彼女。栗色のショートカットに、教師らしいスカートタイプのスーツ姿。小動物を思わせる小柄で可愛らしい印象の先生が、なぜか今日は化け物のように感じてしまう。「黒川ぐん……ぎょうヴぁ補習し、じます。頭の悪い子はいでぃまぜん!」 ヨダレを垂らしながら、危ない薬でもやってるんじゃないかってくらい瞳孔が開いた目で俺を睨みつける愛川先生。その姿に、背筋がぞわりと粟立つ。「な、なんかやばくね……?」 絶対におかしい。あんなのかえでちゃんじゃない。  幸い、俺は窓から遠く、出口に近い席に座っている。逃げるなら今だ。自分の感覚を信じて席を立つ。  そして、一目散に走りだ……そうとした。「あら、補習はまだ終わっていませんよ?」 透き通った声が教室に響く。琴の音のように美しく、まるで脳に直接響くような、そんな声が。  金髪の

コードをスキャンしてアプリで読む
DMCA.com Protection Status