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第3話

植川政裕は今日も朝廷から戻るのが遅く、昨日と同じく明月が天に高くかかるまで帰ってこなかった。

しかし、今日は酒を飲んでおらず、足取りは依然としてしっかりしていた。

私が入口の間に座っているのを見ると、植川政裕の顔からは瞬時に楽しげな表情が消え、眉間にしわを寄せた。

その様子を見て私は滑稽に感じた。彼はおそらく白川緒に会ってきたばかりだろう。

だが、私を見ると瞬時にその楽しい気分を引っ込めるのだった。

植川政裕は入口の間に入ってきた。「どうしてまだ休んでいないんだ?」

私は彼を見上げて、昼間に言った言葉を繰り返した。「離縁したい」

その言葉を聞いた瞬間、植川政裕の顔には明らかな怒りが浮かび、彼は一歩前に進み出た。

「雪子、この年になって、そんな子供じみたことを言うな」

私は彼からほのかに軟膏の香りを感じた。それは都で流行している白蓮の軟膏のようだった。

街でこの軟膏を見かけたとき、精巧な見た目と心地よい香りが気に入っていたが、一つまみで一判金もする高価なものだったため、買うのを躊躇っていた。

毎日、奥の間で彼と息子の世話をしている自分には、使う機会もないだろうと思っているからだった。

しかし、白川緒にとってはこの軟膏は日用品であり、彼女の身に常に漂っていた。その香りも植川政裕の体にも染みついていた。

私は眉を上げ、心の中のねたみと怒りを抑えながら言った。

「私たちが離縁すれば、白川緒は正妻になれる。まさか彼女を妾にするつもりか?」

その言葉を聞いた植川政裕の顔に、一瞬の動揺と驚きが浮かび、それがやがて当然の表情に変わった。

「渚は夫を失い、弱い女性ひとりでは可哀想だ。だから私は彼女を妻に迎えたいと思っている」

「だが、心配するな。離縁するつもりはない。お前と一緒に、渚も平等に妻として愛するよ」

その言葉を聞いた私は、鈍い刃物で心を切り裂かれるような痛みを感じた。それは私の真心が血まみれになるまで刻まれ続けた。

植川政裕が私を愛していないだけだと思っていたが、まさか彼はここまで厚顔無恥だった。

白川緒を妻として迎え入れるだけでなく、私との離縁も拒否した。

これが、私が四十年間心から愛してきた男だった。彼はすべてを手に入れようとし、何一つ手放そうとはしなかった。

私は決然と首を振り言った。

「我が賀茂家の家訓には、他人と一人の
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