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第10話

私は斉藤幸夫がまだ諦めていないとは思わなかった。彼は近くにアパートを借りて住み着いた。

多分、これまでの私の何度も彼を許したことが、彼に「もう少し頑張れば、いつか私が彼を許す」と思わせたのだろう。

私は仕方なく頭を振り、彼に一瞥も与えなかった。

彼は全く気にせず、まるで再び私を追いかけるかのように、花束とプレゼントを抱えて毎日私のドアの前に立っていた。

そのため、私はおばあさんが最近友人たちと近くに旅行に行くよう勧めたことを嬉しく思った。

そうでなければ、善良なおばあさんが許してしまうのが怖かった。

この間、私は斉藤幸夫に一度も目を合わせなかった。

そんな時、隣の若い男が旅行から帰ってきて、お土産を持ってきてくれた。

すると、斉藤幸夫は怒り心頭で飛び出してきて、私と隣の若い男を見つめ、怒鳴った。

「彼は誰だ?君たちは付き合ってるのか?どの段階まで進んでるんだ?」

私は怒りを抑え、無表情で彼を見つめた。

「私たちはもう離婚したことを忘れたの?」

斉藤幸夫は一瞬しょんぼりし、声がかすれた。「朝子、そんな風にしないで。

お願いだから、そんな風にしないで。君のことが忘れられない、本当に忘れられないんだ......」

「だから、何であなたの後悔を私が背負わなければならないの?」

私の心には一切の波もなく、冷たく彼を遮った。「私は許せない罪人なの?」

斉藤幸夫は沈黙し、しばらくして涙が溢れた。

「本当に......一つのチャンスもないのか?」

私は目の前のかつて愛した人を見つめた。

「過去にしたことは消せない。痛みの瞬間を忘れられない自分を納得させて、あなたとまた絡むことはできない。

あなたと再び絡むことを考えるだけでも、一分一秒でも、耐え難いほど嫌だ」

斉藤幸夫は突然涙が溢れ、嗚咽した。

「ごめんなさい......朝子、安心して。もう二度と君を困らせない」

私は彼の寂しい背中が夕陽の中に消えていくのを見た。

その瞬間、若い頃の恋心も夕焼けとともに沈んでいった。

その日以降、斉藤幸夫は私の前に現れなかった。

最後に彼の噂を聞いたのは、おばあさんが旅行から帰ってきた日のことだった。

昔の同僚が突然メッセージを送ってきた。

【朝子、聞いた?坂井佳代子が出てきてあなたの元夫に絡んでるって。結婚したがってるけど、斉藤幸夫は全然応じ
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