第1話

結婚記念日。謝野景輝は私を見捨てられた建物の屋上に縛り付けた。

彼は私の正面にどっかりと腰を下ろし、ゆっくりとビデオを流し始めた。

画面には、私のために何度も頭を下げ、彼に懇願する父の姿が映し出されていた。

私は目を見開いて凝視した。景輝は私を蹴り飛ばしながら吐き捨てるように言った。

「てめえの親父のこの姿、見てて辛いか？」

「だが、これは俺が月ちゃんを失ったときの千分の一の痛みにも及ばねえんだよ！」

突然の激痛で体が跳ね上がった。

痛みで視界が暗くなり、意識が遠のきそうになったが、叫ぶことすらできなかった。

その前に、景輝は灼熱の油で私の声帯を焼き切っていたからだ。

生命維持に不可欠な呼吸が、私を苛む拷問と化していた。

私の苦悶する姿は景輝の心を満たしたようだった。

彼は私の顎を掴み、血走った目で、憎悪に満ちた瞳で睨みつけた。

「星野奏音、てめえはどうしてそこまで卑劣になれたんだ？」

「いじめを仕組んで、俺の月ちゃんを殺しやがって！」

「星野奏音、なんでお前が死ななかったんだ！」

最後の言葉は絶叫に近かった。まるで野獣のように私に向かって吠えたのだ。

月ちゃん？

江崎浦月？

私は必死に記憶を探り、その名前に合う顔を思い出そうとした。

やがて、いつも輝くような笑顔で、大胆不敵な表情を浮かべる顔が蘇ってきた。

そのとき、全てが繋がった。

彼は浦月を狂おしいほど愛していただけでなく、あの悲惨ないじめを私が仕組んだと、ずっと信じんでいたのだ。

私と景輝は幼い頃から一緒に育ち、まさに幼なじみだった。

高校3年生の時、私たちは念願の進学クラスに入った。

最後の1年を懸命に戦い、夢の大学を目指して突き進むつもりだった。

今の実力なら、第一志望校に合格は間違いなく、東大も狙えるはずだった。

景輝も私の監督と指導の下、国立大学トップテンに入るのは簡単だっただろう。

あとはこの最後の1年、彼が踏ん張れるかどうかだった。

ところがそんな時、浦月が転校してきた。

彼女は美しく、白くて細身で、笑うと目が細くなった。

彼女が工夫を凝らした制服は、その素晴らしいスタイルを存分に引き立てていた。

高校3年生、17、18歳の男子生徒たち。

まさに油が火を呼ぶような、一触即発の年頃だった。

浦月に気のある男子生徒がどれほどいたか分からない。景輝も例外ではなかった。

彼の両親は厳しく、少しのミスも許さなかった。

だからこそ、情熱的な浦月は彼にとって、象牙の塔に咲く鮮やかなバラのように、致命的な魅力を放っていた。

浦月が現れた時、私はまだ景輝に秘かな想いを寄せていた。

彼が浦月に影響されて、神の座から泥沼に落ちるのを見るのが辛かった。

何度も二人の接触を阻止しようとした。

そのうち、浦月は私を激しく憎むようになった。

ある日、人目を避けて階段の踊り場で私を捕まえ、こう言った。

「奏音、覚えておきなさい。景輝はいずれ私のものよ」

私が想像もしていなかったのは、彼女が選んだ方法がいじめを計画することだったことだ。

彼女と景輝をターゲットにしたいじめ。

目的は私に罪をなすりつけ、私と景輝の仲を引き裂くことだった。

幼稚で頭の悪い行為だった。

それなのに、私と景輝は共に罠にはまってしまった。

その時、私は景輝だけを救い、浦月はあの暴漢たちの手加減のない暴力で、不慮の事故で路地裏で命を落とした。

過去を思い出し、景輝は目を閉じ、瞳の中の悲痛を隠した。

「奏音、お前は月ちゃんの命を奪ったんだ！」

私は落ち着きを取り戻し、怒りの収まらない景輝の目を見つめ、必死に首を振った。

あの事件は本当に私が計画したものではないと伝えようとした。

景輝は身を屈め、熱い煙草の先を私の顔に押し付け、悪意ある笑みを浮かべた。

「奏音、お前の親父はもう先に地獄で待っているぞ」

私の体は一瞬で冷え切り、涙が止めどなく流れ落ちた。

胸の中に息苦しいような痛みが込み上げ、内臓がナイフで切り刻まれるようだった。

「お前が月ちゃんを殺した。これは全部お前が受けるべき報いだ」

「お前があのいじめを計画していなければ、俺と月ちゃんは別れ別れにならずに済んだ」

前の文は歯を食いしばり、憎しみが溢れ出そうだった。

しかし後の文では、彼の口調は突然穏やかになった。

だが、その中には気づきにくい、絶望に近い苦痛が混じっていた。

私は片膝をついたまま、彼を睨みつけた。

涙が頬を伝って口に流れ込み、苦い味が広がった。