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第12話

翌日、美羽は翔太に同行し、前日に会ったスミス氏を龍舟製作工場へ案内した。

碧雲グループは主にベンチャーキャピタル事業を行っている。日本最大の投資会社の一つであり、国内外に多くのプロジェクトを持ち、社会的影響力も極めて大きかった。そのため、政府が支援するようなプロジェクトにも積極的に関わっていた。

この非遺産としての龍舟製作工場もその一つだった。

美羽は昨夜の感情をきれいに消し去り、総裁秘書として完璧な態度を保って翔太の隣に立っていた。話すべき時には話し、必要ない時には静かに同行していた。

広々とした工場内には、色鮮やかで表情豊かな数十本の龍舟が並べられており、工場長が説明をしていた。スミス氏は感心しながらそれを聞いていた。

工場長は誇らしげに言った。「これらは全て18メートルですが、今、世界最長の龍舟を作っているんです。全長101メートルですよ!完成したらギネス世界記録に申請する予定です。星煌市の龍舟をもっと多くの人に知ってもらいたいですね!」

スミス氏は驚いて言った。「101メートル!?ビルよりも高いじゃないか。それが水に浮かんだら、どれだけ壮観な光景になるんだろう。ぜひ見てみたいですね!」

工場長は笑って答えた。「もちろんです。実はそれ、すでに僕たちの頭上にあるんですよ。ほら、見てください!」

全員が頭を上げてみると、天井近くに終わりが見えないほどの長さの舟が吊るされていたのに気付いた。

工場長は続けた。「大きすぎて場所を取るので、こうして吊るすしかないんです。まだ基本構造しか完成しておらず、これからさらに多くの工程が必要です。次は龍の胴体を完成させます」

みんなが長い舟を見上げる中、美羽は誰かに視線を向けられているような気配を感じた。

目を凝らして周囲を見渡すと、遠くの角に帽子とマスクを着けた背の高い男が、長いレンズのカメラでこちらを撮影していたのが見えた。

美羽は眉をひそめ、工場長に尋ねた。「工場長、あの人は誰ですか?」

工場長は彼を一瞥して答えた。「あの人はブロガーだそうです。撮ったものをネットに載せると言っていました。101メートルの龍舟の製作に興味を持って撮影しに来たと。これは宣伝にもなると思って、許可しました」

男のカメラの方向は確かに龍舟を撮っているように見えた。龍舟は非常に長いし、彼らもその下を歩いていたのだから、それは説明がついた。

自分の考えすぎかもしれない、と美羽はその場で結論づけた。

その時、翔太が手を伸ばした。美羽は一瞬何を求めているのか分からず反応が遅れた。

翔太は手が空中に二十秒ほど宙ぶらりんのままで、不満そうに美羽を見つめた。美羽が彼と目を合わせ、ようやく湿ったティッシュが必要だと気づいた。

翔太は潔癖症で、何かに触れるとすぐに手を拭きたがるのだ。

かつて美羽は、彼のあらゆる癖を熟知し、彼の一挙一動にすぐに気づいて対応していた。しかし、今日は彼に対する注意が散漫だった。

美羽はバッグからウェットティッシュを取り出すと、手渡しながら、自分が彼に気を配っていないことに気づき、内心驚いた。彼のことをいつものように考えていなかったのだ。

その彼女の無関心に気づいたのか、翔太は彼女をもう一度ちらりと見た。

昨夜のビンタはそれほど強くなかったため、彼の美しい顔には何の痕跡も残っていなかった。まるで何もなかったかのようだった。

月咲もまたその場にいて、翔太の視線が美羽に向けられているのを見ていた。彼女の脳裏には、あの「正妻が死なない限り、他の女は妾に過ぎない」という言葉がよぎった。

その瞬間、月咲が美羽に呼びかけた。「美羽さん」

美羽は振り返った。

そして、その瞬間、再び男が彼女に向けてカメラを向けていたのを目にした。今度は確信した。彼は龍舟ではなく、確かに自分を撮影していた。

美羽は彼のもとへ行って理由を尋ねたかったが、クライアントがいる場で騒ぎを起こすのは避けたかった。

どうせすぐに見学は終わる。終わってからでも彼を追いかけるのは間に合う。

美羽は月咲に向き直り、「何?」と聞いた。

月咲は小さな声で尋ねた。「こういうプロジェクトって、会社に利益が出るんですか?」

美羽は答えた。「こういったプロジェクトの利益はお金じゃないわ」

月咲はにっこり笑い、「じゃあ名声ですね。分かりました」と言った。

美羽は壁に貼られた「4」のラベルをちらりと確認し、翔太について行った。

一行は工場を一巡りし、見学が終わる頃、翔太はクライアントに昼食を一緒に取るよう誘った。しかしその瞬間、突然2階から大声が響いた。「危ない!下がって!」

下にいた人々はその声を聞いて上を見上げた。

その瞬間、101メートルの長い龍舟がバランスを崩して傾き始めたのだ。舟を支えていた十数本の縄が切れ、龍舟は支えを失って地面に向かって落下してきた。

全員の目が見開かれ、瞬時に反応する間もなく、美羽は翔太を引き寄せようと手を伸ばした。

だが、その手は空を切った。

ドスン!

龍舟が落ちた瞬間、下にいた人々は次々と倒れ込んだ。

美羽は翔太を引こうとしたため、動きが一瞬遅れ、完全に避けることができなかった。彼女のふくらはぎに龍舟が当たった。「あっ」と短く叫んだ。

痛みが走った。

しかし、脚の痛み以上に彼女の胸が痛んでいた。

彼女がふと顔を上げると、翔太は月咲を抱きかかえて守っているのに気付いた。あの一瞬で、彼は迷わず月咲をかばっていたのだ。

彼がそこまでして守るなんて。

彼は本当に、月咲を深く愛しているの?

美羽は傷ついた脚を見つめ、ふと笑みを漏らした。

彼女は自分の3年間が、全く無意味だったことを笑ったのだ。

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