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第一章 過去と現在が交差する5

Penulis: ひなの琴莉
last update Terakhir Diperbarui: 2025-01-09 15:38:26

リビングに戻ると、紫藤さんは喉でクククって笑っている。

「すごい慌てようだったね」

「男の人を部屋に入れたことが無いので、洗濯物を隠すとか気が回らなかったんです」

「男とか女とか以前に普通は洗濯物を隠すでしょ? きっとキミは大事に育てられたお嬢さんだったんだね」

「そうかもしれないです。料理も洗濯もできない娘でした。親がなんでもやってくれるのが当たり前だったんです。甘え過ぎていたなぁって、今は反省しています」

今は本当にそう思っている。だからこうして一人暮らしをはじめたことは正解だったのではないだろうか。

「反省しているならいいじゃん。これから頑張ればいいさ」

前向きな考え方ができる紫藤さんを尊敬する。

私はどちらかというと悪いほうへ物事を考える性格だから。一度落ち込んでしまうとだんだんとマイナス思考になってしまうのだ。

話し込んで気がつけば時間は十九時になっていた。

グーッとお腹が鳴ると恥ずかしさのあまり顔が熱くなってしまう。

「たしかに、腹減ったよね……」

なにか作りましょうかと言いたいところだが、作れる料理といえば、目玉焼き、スクランブルエッグくらいだ。唯一できる料理も焦がしてしまうことが多い。

母は心配して、先日、にんじん・玉ねぎ・じゃがいも・お肉とカレールーを送ってきたのだが、それすら危うい。

まして他人に食べさせるなんて無理だ。お腹を壊して病院に運ばれてしまうかもしれない。

「ご、ごめんなさい。料理できないんです」

頭を深く下げてお詫びする。

「じゃあ俺が作ってあげようか?」

予想外の提案に私は顔を上げた。

「そ、そんな。お願いしてもいいんですか?」

「うん。冷蔵庫見せてもらうね」

ソファーから立ち上がった紫藤さんは、冷蔵庫を開けて中身をチェックしている。

窓がカタカタいうほど雨と風は強くて、まだ帰れそうにもないようだ。私はとてもお腹が減っているけれど彼もお腹が空いているに違いない。それならお言葉に甘えて作ってもらう?

「カレーライスできるじゃん」

「すごい! そうなんですよ。お母さんが作りなさいって材料を送ってくれたんです」

……マジでキミ、ヤバいね」

自分の女子力の無さにがっくり落ち込む。

「じゃあ台所借りるね」

「どうぞ」

手際よく料理をはじめだした。包丁で人参の皮を剥き、ジャガイモはボコボコして複雑な形をしているのに簡単に皮を剥いていく。私は横で見ていた。

「上手ですね。シェフみたい」

……基本的なことくらいは、ね。はい、後は煮込んで終わり」

完成したカレーライスを食べると美味しすぎて、ついつい笑顔になってしまう。

「うわー! 美味しいっ」

「そりゃあ、よかったです」

次から次へと口に運んでいると、不思議な気分になる。

初対面の人を家に入れてカレーライスまで作ってもらうなんて。なんだか漫画や小説の世界に入り込んだみたいだ。

「キミさ。子供っぽいけど……いくつなの?」

「十八歳です」

「ふーん。まだ中学生かと思った。胸も小さいし」

……な! 失礼ですっ」

「面白いね、キミ」

絶対にからかわれているよね。でも一緒にいると心地いい。

紫藤さんのことも知りたいけど、何から聞いたらいいのだろうか? 質問してみたいけど失礼なことを言っては困ると思わず彼の顔をじっと見つめて黙り込んでしまった。

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    大樹side愛する人との平凡な毎日は、あまりにも最高すぎて、夢ではないかと思ってしまう。先日は、美羽との結婚パーティーをやっと開くことができた。美羽のウエディングドレス姿を見た時、本物の天使かと思った。美しくて柔らかい雰囲気で世界一美しい自分の妻だった。同時にこれからも彼女のことを命をかけて守っていかなければならないと感じている。紆余曲折あった俺たちだが、こうして幸せな日々を過ごせるのは心から感謝しなければならない。当たり前じゃないのだから。お腹にいる子供も順調に育っている。六月には生まれてくる予定だ。昨晩は性別もわかり、いよいよ父親になるのだなと覚悟が決まってきた気がする。女の子だった。はなの妹がこの世の中に誕生してくるのだ。子供の誕生は嬉しいが、どうしても生まれてくることができなかったはなへは、申し訳ない気持ちになる。母子共に健康で無事に生まれてくるように『はな』に手を合わせて祈った。手を合わせて振り返ると隣で一緒に手を合わせていた美羽と目が合う。「今日も忙しいの?」「うん。ちょっと遅くなってしまうかもしれないから無理しないで眠っていていいから」美羽は少し寂しそうな表情を浮かべた。「大くんに会いたいから起きていたいけど、お腹の子供に無理をかけたくないから、もしかしたら寝ているかもしれない」「あぁ。大事にして」俺は美羽のお腹を優しく撫でた。「じゃあ行ってくるから」「行ってらっしゃい」玄関先で甘いキスをした。結婚して妊娠しているというのにキスをするたびに彼女はいまだに恥ずかしそうな表情を浮かべるのだ。いつまでピュアなままなのだろうか。そんな美羽を愛おしく思って仕事に行きたくなくなってしまうが、彼女と子供のためにも一生懸命働いてこよう。「今度こそ行ってくるね」「気をつけて」外に出てマンションに行くと、迎えの車が来ていた。

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    少し眠くなってきたところで、玄関のドアが開く音が聞こえた。立ち上がって迎えに行こうとするがお腹が大きくなってきているので、動きがゆっくりだ。よいしょ、よいしょと歩いていると、ドアが開く。大くんがドアの前で待機していた私は見てすごくうれしそうにピカピカの笑顔を向けてきた。 そして近づいてきて私のことを抱きしめた。「美羽、ただいま。先に寝ていてもよかったんだよ」「ううん。大くんに会いたかったの」素直に気持ちを伝えると頭を撫でてくれた。私のことを優しく抱きしめてくれる。そして、お供えコーナーで手を合わせてから、私は台所に行った。「夕食、食べる?」「あまり食欲ないんだ。作ってくれたのなら朝に食べようかな」やはり夜遅くなると体重に気をつけているようであまり食べない。この時間にケーキを出すのはどうかと思ったけれど、早く伝えたくて出すことにした。「あ、あのね……これ」冷蔵庫からケーキを出す。「ケーキ作ったの?」「うん……。赤ちゃんの性別がわかったから……」こんな夜中にやることじゃないかもしれないけど、これから生まれてくる子供のための思い出を作りたくてついつい作ってしまったのだ。迷惑だと思われてないか心配だったけど、大くんの顔を見るとにっこりと笑ってくれている。「そっか。ありがとう」嫌な表情を全くしないので安心した。ケーキをテーブルに置くと私は説明を始める。ケーキの上にパイナップルとイチゴを盛り付けてあった。「この中にフルーツが入ってるの。ケーキを切って中がパイナップルだったら男の子。イチゴだったら女の子。切ってみて」ナイフを手渡す。「わかった。ドキドキするね」そう言って彼はおそるおそる入刀する。すると中から出てきたのは……「イチゴだ!」「うん!」お腹の中にいる赤ちゃんの性別は女の子だったのだ。「楽しみだね。きっと可愛い子供が生まれてくるんだろうな」真夜中だというのに今日は特別だと言ってケーキを食べる。私と彼はこれから生まれてくる赤ちゃんの話でかなり盛り上がった。その後、ソファーに並んで座り、大きくなってきたお腹を撫でてくれる。「大きくなってきた」「うん!」「元気に生まれてくるんだぞ」優しい声でお腹に話しかけていた。その横顔を見るだけで私は幸せな気持ちになる。はなを妊娠した時、こんな幸福な時間がやってくると

  • 秘めた過去は甘酸っぱくて、誰にも言えない   完結編・・・第二章1

    美羽side結婚パーティーを無事に終えることができ、私は心から安心していた。 私と大くんが夫婦になったということをたくさんの人が祝ってくれたのが、嬉しくて ありがたくてたまらなかった。 しかし私が大くんと結婚したことで、傷ついてしまったファンがいるのも事実だ。 アイドルとしては、芸能生活を続けていくのはかなり厳しいだろう。 覚悟はしていたのに本当に私がそばにいていいのかと悩んでしまう時もある。 そんな時は大きくなってきたお腹を撫でて、私と大くんが選んだ道は間違っていないと思うようにしていた。自分で自分を肯定しなければ気持ちがおかしくなってしまいそうになる。 あまり落ち込まないようにしよう。 大くんは、仕事が立て込んでいて帰ってくるのが遅いみたい。 食事は、軽めのものを用意しておいた。 入浴も終えてソファーで休んでいたが時計は二十三時。 いつも帰りが遅いので平気。 私と大くんは再会するまでの間、会えていない期間があった。 これに比べると今は必ず帰ってくるので、幸せな状況だと感で胸がいっぱいだ。 今日は産婦人科に行ってきて赤ちゃんの性別がはっきりわかったので、伝えようと思っている。手作りのケーキを作ってフルーツの中身で伝えるというささやかなイベントをしようと思った。でも仕事で疲れているところにそんなことをしたら迷惑かな。 でも大事なことなので特別な時間にしたい。

  • 秘めた過去は甘酸っぱくて、誰にも言えない   完結編・・・第一章16

    「そんな簡単な問題じゃないと思う。もっと冷静になって考えなさい」強い口調で言われたので思わず大澤社長を睨んでしまう。すると大澤社長は呆れたように大きなため息をついた。「あなたの気の強さはわかるけど、落ち着いて考えないといけないのよ。大人なんだからね」「ああ、わかってる」「芸能人だから考えがずれているって思われたら、困るでしょう」本当に困った子というような感じでアルコールを流し込んでいる。社長にとっては俺たちはずっと子供のような存在なのかもしれない。大事に思ってくれているからこそ厳しい言葉をかけてくれているのだろう。「……メンバーで話し合いをしたいと思う。その上でどうするか決めていきたい」大澤社長は俺の真剣な言葉を聞いてじっと瞳を見つめてくる。「わかったわ。メンバーで話し合いをするまでに自分がこれからどうしていきたいか、自分に何ができるのかを考えてきなさい」「……ありがとうございます」俺はペコッと頭を下げた。「解散するにしても、ファンの皆さんが納得する形にしなければいけないのよ。ファンのおかげであなたたちはご飯を食べてこられたのだから。感謝を忘れてはいけないの」大澤社長の言葉が身にしみていた。彼女の言う通りだ。ファンがいたからこそ俺たちは成長しこうして食べていくことができた。音楽を聞いてくれている人たちに元気を届けたいと思いながら過ごしていたけれど、逆に俺たちが勇気や希望をもらえたりしてありがたい存在だった。そのファンたちを怒らせてしまう結果になるかもしれない。それでも俺は自分の人生を愛する人と過ごしていきたいと考えた。俺達COLORは、変わる時なのかもしれない……。

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