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第3話

洋太は慌てた表情で、両腕を広げて明のベッドの前に立ちはだかった。

「だめだ、俺は反対だ!」

私はわざと責めるように言った。「大人の話に、子供が口を挟むものじゃないわよ」

洋太は冷や汗をかきながら、私は彼の後ろめたさを冷ややかに見つめた。

「お母さん、あなたはお父さんのことが一番好きじゃなかったの?死体を切り刻むなんて、そんなことができるの?」彼の声には懇願の響きがあった。

しかし、私は揺るがない。「臓器提供は人を救うためのものよ。私は彼のためだ。もしかしたら、お父さんは来世でいい生まれ変わりができるかもしれないわ」

洋太は私を説得できないと悟ると、無理にその場を抑えようとし、周りを見回し始めた。誰かを待っているようだった。そして次の瞬間、彼の目が輝いた。

「ひなた叔母さん!」

私は振り返り、綺麗に着飾った女性が急いでやってくるのを見た。それは明の幼馴染、中野ひなただった。

私は心の中で冷たく笑った。

やはり私の予感は的中していた。ひなたはずっと近くで待機していたのだ。

前世でも、私は洋太とひなたに手を組まれて騙され、明の遺体をきちんと確認しなかった。

火葬の前に遺体を一瞬だけ見て、彼らに入れ替えのチャンスを与えてしまったのだ。

「真央、一体何をしているの?」

ひなたは焦った表情で、私の前に立ちはだかり、ベッドの上の明をしっかりと覆い隠した。

「明さん、どうしたの!」ひなたは目に涙を浮かべながらベッドにすがりつき、悲しそうなふりをした。「駄目よ、臓器提供なんて私は絶対に認めない!」

「真央、あなたはなんて冷たいの。明がこんな状態なのに、その臓器を提供するなんて、静かに眠らせてあげられないのか?」

目の前の涙ぐむ彼女を見て、私は心の底から怒りと憎しみが湧き上がった。

彼女は明と幼馴染で、幼い頃からずっと一緒に育ってきた。しかし、後に隣町のお金持ちと結婚し、明とは一時絶交状態になった。

ところが、そのお金持は後にギャンブルに溺れ、財産をすべて失い、家庭内暴力を振るうようになった。何度も耐えきれなくなったひなたは、家を出て逃げ帰ってきたのだった。

彼女の状況を知った私は、彼女の不幸を哀れみ、実の妹のように接し、何かと助けてやった。時々家に招いて食事をともにすることもあった。

だが、私の知らないところで、彼女と明はこそこそと不倫関係を続けていたのだ。

突然現れた彼女を前に、臓器提供のスタッフたちは困惑し、私の顔を見てどうするか伺ってきた。

「青木さん、臓器提供はどうなさいますか?」

私はひなたを一瞥し、淡々と言った。「提供しますわ」

「明の両親は数年前に亡くなっているし、洋太はまだ未成年。私は明の妻で、この件を決める人よ」

「それにあなたはどうなの、中野さん。明とあなたは何の関係があるの?私たち家族のことに口出しなんてしないで」

私の言葉を聞いたスタッフたちは、ひなたに対しても強気になった。

「申し訳ありませんが、作業を妨害しないでください」

機関のスタッフは簡単にひなたを押しのけ、手際よく明の「遺体」を近くのストレッチャーに乗せた。

「待って!明をどこに連れて行くつもりなの?」ひなたは驚き、止めようとしたが、どうすることもできなかった。

「まずは冷凍保存して、その後私たちの機関の提携病院に運びます」

ストレッチャーはどんどん遠ざかり、ひなたと洋太は他の人々に抑えられて、明に近づくことができなかった。

ついに、ずっと横たわっていたその「遺体」は耐えきれなくなった。

「ゴホッゴホッ!ちょっと待て、俺は死んでない!」

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