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私のお金を騙し取るために、夫が死んだふりをした
私のお金を騙し取るために、夫が死んだふりをした
著者: 山崎妙子

第1話

「石川明さんの奥さんですよね?ご主人は脳出血で救急搬送されましたが、先ほど亡くなられました」

30分前、私は家の近くにある私立病院から電話を受け、急いで駆けつけた。病院に入ると同時に夫の死亡通知を受け取った。

そばには、息子の石川洋太が既に待っており、真っ赤な目で私を見上げていた。

「お母さん、お父さんが亡くなったよ」

私は、白い布をかけられ、運び出される夫と、隣で悲しみに暮れる息子を見て、まるで夢を見ているかのような気持ちだった。

前世で、息子の姿を見た私は心が張り裂けそうで、目を赤くして彼を抱きしめた。

「洋太、大丈夫よ。お母さんが絶対に苦労させないから、二人で頑張ろうね」

明が亡くなってからわずか二日後、債権者が家に押し寄せ、夫がギャンブル依存症で数億円の借金を残していたことを知った。

私は、息子の洋太に心配させないため、家庭の状況を隠して、両親が残してくれた京星市の家を安値で売り払い、親戚や友人からもお金を借りて、何とかその借金を返済した。

洋太は高校三年生で、学費もかかる時期だ。それに加えて、彼は普段から金遣いが荒く、ブランド物の服をよく買っていた。私は家賃や生活費を一人の給料でまかなうのが次第に難しくなっていった。

そのため、私は三つの仕事を掛け持ちし、朝から晩まで働いた。自分は塩漬けの漬物とインスタントラーメンで食いつなぎながら、毎日栄養価の高い食事を洋太に用意し、彼のために大金を払って家庭教師まで雇っていた。

しかし、その後、私は病床で必死に命をつなごうとする中、息子と看護師の会話を耳にした。

「患者さんの容態は非常に危険です。家族の同意があれば、手術で助かる可能性もあります。彼女は強い生存意識を持っており、手術をすればまだ生きられる見込みもあると思います」

私は全身の力を振り絞って息をし、生き延びるための一瞬一瞬をつかもうと必死だった。

しかし、20年間愛し続けた息子は、冷たい声でこう答えた。「手術なんかしなくていいよ。うちにはそんなお金はないんだ」

目は開けられなかったが、周りの動きや声はすべて聞こえていた。

なぜ、息子はそんなことを言うのだろうか?確かに夫が亡くなる前ほど家に余裕はないが、私が何年も働き続けて少しは貯金もできた。

三日前には、息子に400万円のカードを渡し、彼の新居の頭金にしてあげたばかりだったのに。

看護師は困った様子で再度尋ねた。

「本当に手術しないんですか?手術代は100万円を超えませんよ。親戚や友人に借りてでも先に払って治療してあげることはできませんか?」

しかし、息子は面倒くさそうにその話を遮った。

「生存率があるからって、必ず生きられるわけじゃないでしょ。無駄に100万円を使って助からなかったら、意味ないじゃないか」

看護師はため息をつき、家族の同意がないため、病院は私に手術を行うことができなかった。

私は集中治療室に運ばれ、保存療法という名目のもと、死を待つだけの日々を送ることになった。

ベッドに横たわり、どうしても理解できなかった。なぜ息子が、たった100万円の手術代で私の命をあきらめるのか。

死の間際、私はかすかに目を開け、息子がベッドのそばに立っているのを見た。

心電図の波がだんだんと弱くなるのを見て、息子は嬉しそうに電話の相手に報告していた。

「お父さん、もうすぐだよ。ひなたおばさんと一緒にお金を持って帰ってきてね」

「俺、ちゃんと彼女に保険かけてあるから、死んだら少なくとも1億円は手に入るよ」

電話の向こうからは、6年前に亡くなったはずの夫の声がはっきりと聞こえた。

そして、息子が親しげに呼んでいた「ひなたおばさん」とは、夫の幼馴染だった。

息子は私がまだ聞こえているとは知らず、彼らとこれからの幸せな生活について嬉々として話し合っていた。

「この数年、我慢するのが本当に大変だったよ。俺、お母さんがいる間はずっといい子を演じなきゃいけなかったんだ。お母さんさえいなければ、俺はもうとっくに外国で御曹司として楽な生活を送ってたんだよ」

「でも、彼女も無駄死にじゃないよ。彼女のおかげで1億円も増えたし、京星市のあの家も俺が長い間狙ってた物件だから、これで俺のものになるね」

私はその会話を聞きながら、涙が頬を伝った。

彼らの話の中で、すべてを理解した。

夫とその愛人が行ったマネーロンダリングを隠すために作った嘘の帳簿によるものだった。

そして、私が命を削って守ろうとした息子は、すべてを知っていた上で父親と共謀していたのだ。

夫も息子も、私の命を骨の髄までしゃぶり尽くしていた。

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