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第2話

そう言い終わると、彼はドアを閉めて去っていった。

寝室の外からは、嫁の声が聞こえてきた。

「ご飯も作れないの?また外で食べなきゃいけないなんて、本当に怠け者なんだから!」

息子が小さな声でなだめると、やがてすべてが静かになり、二人は仕事に出かけていった。

しかしすぐに、また耳元に夫のいびきが響いてきた。

よくもまあ、こんなに安らかに寝ていられるものだ。

でも、どうして?

なぜ私が全ての家事をしなきゃいけないの?

どうして、たった一度のケガでご飯を作らなかっただけで、何もしていないと責められるの?

私がしてきた努力や苦労は、誰にも見えないというの?

ふと、心が重くなった。

耳元では夫の大きないびきが響き続け、頭の中には今日やらなければならない仕事が浮かんでいた。

まるで40度を超える暑さの中で、密閉された家に閉じ込められているようで、息苦しさを感じた。

それでも私は起き上がった。

つらい体を起こして服を着替え、孫を起こしに行った。

うちのぽっちゃり坊やはとりわけ寝坊助で、なかなか起きない。

なんとか起こして、時間が迫っていることを気づかせようとした。

濡れタオルで顔を拭いてあげようとすると、彼は怒ってそっぽを向き、私を睨みつけた。

「触るなよ!お前なんか大嫌いだ!」

私は辛抱強くなだめようとしたが、彼はさらに激しく反発した。

「クソババア!お前なんかただの家政婦だろ?何の権利があって俺に構うんだよ!パパに頼んで、お前なんか追い出してやるからな!俺はお前なんかいらない!別の家政婦を雇ってもらうから!」

孫のあり得ない暴言に、私の心の中で築いてきたものが一気に崩れ去った!

涙がこぼれそうになり、何もかも諦めたくなった。

こんなにも尽くしてきたのに、この家族は誰一人として私のことを見ていない。

若い頃は、仕事をこなしながら義両親と夫の世話をしてきた。

一日三食を用意し、洗濯をし、義両親の介護もしてきたし、子どもも自分一人で育てた。

猫の手も借りたいほど、毎日忙しかった。

ずっと、退職すれば楽になると信じてきた。

でも今、年老いて退職しても、当時とやっていることは変わらない。

洗濯も料理も、子どもの送り迎えも、毎日忙しく、自分の時間などほとんどない。

損をしても構わないと思ってきたし、事を荒立てたくないから黙ってきた。

この家がうまく回れば、多少自分が犠牲になってもいいと思っていた。

でも、私の家族はどうしてそれを当たり前のように受け止めているのかしら?

目を閉じて、心の痛みをじっとこらえた。

気晴らしにどこかに出かけたくなった。このままでは、私は自分で自分を押し潰してしまうだろう。

もう、孫を起こして学校に行かせることなんて気にしたくない。

私は部屋を出て、まだ寝ているじいさんの名前を叫んだ。

「坂本茂!坂本茂!起きて孫を学校に送ってきてよ、私には用事があるから」

用事を頼んで、バッグを持って家を出た。

親友に会いに行こうと思った。どうしても誰かに話を聞いてもらいたかった。

彼女は早くに旦那を亡くし、息子夫婦も別のところに住んでいるので、私よりもずっと気楽な生活を送っている。

私を見た瞬間、彼女は私の傷ついた腕に気づき、驚いて私の腕を何度も確かめた。

「本当に大丈夫?ちょっと見ない間にこんなことになって!どうしたのよ!?」

その一言で、私は涙がこみ上げてきた。

彼女は、私が事故に遭った後、最初に気遣ってくれた人だった。

私は首を横に振り、涙をこらえて微笑みを返した。

「昨夜、ちょっと擦り傷を負っただけ、大したことじゃないわ。病院にも行って見てもらったから」

親友は手を伸ばして私を抱きしめてくれた。

「ほらね、次は気をつけなきゃ。私たちもうすぐ60歳よ。こんな体じゃ、無理しちゃダメ」

「でも、本当に入院しなくていいの?」

私は首を振り、昨夜のことを彼女に話した。

彼女は私の手を握り締めて、怒りを込めて言いたいことを次々に言ってくれた。

「なんて奴らだ!あんたのあの家族、本当にろくでもない!あんたの年金はほとんど彼らに使われているくせに、しかもあなたを家政婦代わりにして、全然感謝してないじゃないの!私ならもう、とっくにやめてるわ!」

「考えてみなさいよ!あんたはずっと一家の面倒を見てきたのよ?何の感謝もされずに、なんでそこまで尽くしてしまうの?」

これまでの色んなことを思い出して、涙が止まらなくなった。

彼女は、私を責めることもなく、一家の悪口を言いながら、冗談を交えて慰めてくれた。

彼女のおかげで、少し心が軽くなり、楽になった気がした。

「今日と明日、ここに泊まって、もう帰らないで。しっかり休んでね。傷がこれ以上悪化しないようにしないと」

彼女はそう言いながら、袖をまくり上げて、「スープを作ってあげるから、しっかり栄養を摂って」と言ってくれた。

私はそばで彼女と話しながら、一緒に時間を過ごし、久しぶりに心が和んだ。

しかしすぐに、息子からの電話が鳴った。

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