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離婚後、60歳の私は新たな人生を手に入れた
離婚後、60歳の私は新たな人生を手に入れた
著者: 真田零

第1話

事故の相手の運転手は、家に何度も電話をかけてくれたようだが、誰も電話には出なかった。

きっと、家族は皆忙しかったのだろう。

孫の誕生日を祝うのに夢中で、私のことはすっかり忘れられていたのだ。

簡単な治療が終わると、運転手が私を家まで送り届けてくれた。

玄関に近づくと、中から賑やかな笑い声が聞こえてきた。

この家には私がいなくても、何も変わらない。

ぼんやりとした気持ちで鍵を取り出したとき、手元が緩んで鍵を落としてしまった。

すると、その音でようやく家族が私に気づいた。

少しは気まずい顔をするかと思ったら、みんな平然と私を一瞥するだけで、特に気にしている様子もなかった。

「なんで今頃帰ってきたんだ?どこをほっつき歩いてたんだ?孫の誕生日だってのに、気が利かないな」と、夫が不機嫌そうに文句を言った。

私は無理に笑顔を作り、孫の顔を見つめた。「大翔、ばあちゃんがね…」

小さな金のロケットを買ってきたんだよと続けたかったが、息子の妻が私の言葉を遮り、「お母さん、遅すぎよ。もう食事は済ませたから、片付けをお願い。それと、キッチンに何か食べるものが残ってるか確認して」と、孫を連れてさっさと席を立ってしまった。

息子はスマホに夢中で、私には一切気を配らなかった。

夫もまた、歯をほじくりながら、「この手羽先、まずいからお前が食べろ。食べたらテーブルを片付けとけよ」と、私に指示して立ち去った。

たった数分で、さっきまでの楽しげな声が消え、あたりは静まり返った。

やはり、私の存在が、彼らの楽しさを邪魔してしまったようだった。

テーブルには骨の山、クリームがべたべたとついたケーキ、かじられたまま放置された手羽先が残っていた。

なんとも皮肉な光景だった。

腕に巻かれた包帯を見つめ、自嘲気味に笑った。

腕は胸の前に吊られているから、家族が気づかないわけがない。

でも、誰ひとりとして「どうしたの?」とは聞いてくれない。

私は椅子に腰を下ろしてしばらく休み、ようやく重い体を引き起こして片手で片付けを始めた。

片腕が動かせないせいで、普段の倍以上の時間がかかり、ようやくダイニングだけは片付け終えたが、食器はまだ洗えなかった。

時刻はすでに深夜12時を過ぎ、家の中は静まり返り、皆が眠りについていた。

食器が山積みのシンクを眺めて、深い溜息をつき、洗うのは明日にしようと決めた。

すでに頭がズキズキと痛んだ。もともと年を取ると体調が悪くなりがちだが、今日は事故も起こしてしまい、体が限界に達していた。

部屋に戻って倒れるように眠りにつく前、明日こそ小さな金のロケットを大翔に渡さなければと、ぼんやりと思った。

翌朝、息子の声で叩き起こされた。

目を開けると、息子が不満そうな顔で私を見下ろしていた。

「母さん、なんでまだ寝てるの?昨日の食器も洗ってないし、朝食も作ってないじゃないか?」

何か言いたかったけれど、頭痛と喉の痛みで声が出なかった。

なんとか起き上がって説明しようとした途端、息子は苛立った様子で手を振り、「もういいよ。今さら作っても間に合わないし、僕たち二人で外で何か買って済ませるよ」

「少しは僕たちを気遣ってくれてもいいだろ?今の僕たちがどれだけプレッシャーを抱えてるか知ってる?仕事で疲れてるのに、家で寝てばかりなんて、全然助けにならない」息子は私に文句を並べ立て、私の言い分を聞く余地もなかった。

「僕たちは朝食を適当に外で済ませるけど、父さんはそうはいかないから、ちゃんと作ってやってよ。それと、大翔は今日は学校があるから、送っていくのも忘れないで。僕と静子が着替えた服は寝室にあるから、今日中に洗っておいて」

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