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第0045話

瑠璃の視界は涙でかすんでいた。

それでも、隼人がそこまで冷酷な人間だとは信じたくなかった。

あの小さな命を、彼が本当に自ら手にかけたのだろうか?

蛍は瑠璃の短髪を乱暴に掴み、その化粧ひとつしないのに美しい顔に嫉妬の炎を燃やしていた。「瑠璃、私が今誰だか分かる?私は碓氷家の堂々たる長女で、もうすぐ目黒家の若奥様になるのよ。あんた、私に勝てると思ってるの?」

彼女は瑠璃を蹴り飛ばし、冷たく笑った。「私の子供を返してほしいって言ってたわね?」

その言葉に、瑠璃は動揺し、視界がぼやけた中で、蛍が小さなガラス瓶を取り出したのが見えた。中には白い粉が入っている。

「ここにあるわよ」

何ですって?

瑠璃の体から一瞬で血の気が引き、まるで体中の血と肉がすべて剥ぎ取られ、骨だけが残されたような感覚に襲われた。

視界が暗くなり、蛍の冷たい声だけが耳に残った。

「可哀想に、あの赤ちゃんは生まれたばかりで元気だったのに、今じゃただの灰よ」

「隼人が言ってたわ。この子は死んで当然。あなたみたいな母親がいつも私を不愉快にさせるからね。

「そうそう、あの子は女の子だったの。でも、隼人は一度もその子を見ようとしなかった。すぐに処理させたのよ。

「あんたが欲しいって言うなら、この灰、あげるわ」蛍は慈悲深そうに振る舞いながら、恐ろしい笑みを浮かべた。

瑠璃は痛みで意識が遠のきそうだったが、蛍がガラス瓶を投げた瞬間、視界が一瞬にしてはっきりした。

彼女は血走った目で、蛍が高く放り投げた瓶を見つめた。なんとかして掴もうとしたが、背中をボディガードに踏みつけられ、動けなくなった。

パン!

ガラス瓶は瑠璃の目の前で粉々に砕け、遺骨が床一面に散らばり、一部は彼女の顔にまで飛び散った。

瑠璃は血走った目で、地面に広がる遺骨を見つめた。その瞬間、感情が一気に崩壊した。

「うわああああ!」

彼女は絶叫し、口の中に溜まった血が見え、顔は殴られた痕で酷く腫れていた。今の彼女の姿は、見るに堪えないほど無残だった。

その叫び声が、ちょうど地下室に入ろうとしていた隼人の耳に届き、彼は驚きで一瞬心臓が痛むのを感じた。顔を上げると、短髪の女が地面に跪き、狂ったように粉をかき集めている姿が目に飛び込んできた。

蛍は隼人が来たことに気付くと、瞬時に哀れみの表情を作り、ゆっくりと彼に近づいた。
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