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第2話

颯斗は信じられないといった顔で私を見つめ、少し声を震わせながら言った。

「俺たちはまだ離婚していないんだぞ。なのに、どうして他の男と結婚なんかできるんだ?」

それを聞いた空がすぐに駆け寄ってきて、怒りの表情で私を見上げた。

「ママ、僕とパパのこといらないの?なんで他の人と結婚なんかするの?どうして僕たちを裏切るの?」

私が......彼らを裏切った?

そもそも、何の相談もなく乃愛を家に迎え入れたのは颯斗と空のほうだ。それなのに、私がまだ了承もしていないうちから、颯斗は私に主寝室を譲れと言い出した。

私が反対すると、颯斗は眉を吊り上げて怒りを露わにした。

「なんて自己中心的なんだ、お前は。乃愛はかつて大金持ちと結婚してたんだぞ。豪華な暮らしをしてきたんだから、さすがにウチでは客間じゃなくて主寝室を使わせるべきだろ。

主寝室も客間も変わらないだろう。譲ってやればいいじゃないか」

こうして乃愛は図々しくも私の主寝室に居座り、私は客間に追いやられた。

それだけでは済まなかった。彼女は私を無料の家政婦扱いし始め、毎朝私の手で朝食を作るように要求するようになったのだ。作った料理が彼女の口に合わないと、わざわざ言わなくても、空が飛んできてこう叱りつけるのだ。

「ママ、ママの立場って家の中で料理人と同じくらいなんだから、乃愛おばさんのお世話もちゃんとしてよね。ママが乃愛おばさんをちゃんと世話できなかったら、パパも僕も怒るんだから!」

颯斗と空が乃愛にべったりと取り巻いている姿を見た私は、怒りに任せてキッチンのものをすべて叩き壊し、全員の目の前で乃愛に「出て行け」と言い放った。

だが、その時激怒したのは颯斗と空のほうだった。

颯斗も空も、外の人間である乃愛のために、私に向かって玄関を指さしながら、「お前こそ出て行け!」と怒鳴りつけたのだ。

最初に私を裏切ったのはあの二人だというのに、今になってよくもまあ逆恨みのように責めることを思いついたものだ。

私は冷笑を浮かべ、彼らの馬鹿げた質問には一切答えず、道の向こうへ歩き出そうとした。

しかし颯斗が手首を掴んできて、私を引き止めた。

「たとえ他の男と結婚していようが構わない。お前が離婚さえしてくれれば、俺はまた受け入れてやれるんだ。なんといってもお前は空の実の母親だからな」

私は颯斗をじっと睨み、苛立ちながら彼の手を振り払った。

「その気はないわ」

今日の私はどうやらついていないらしい。家を出る前に占いでも見ておくべきだった。よりにもよって颯斗と空に出くわすなんて。

かつて火事のあの日、私は寝室に閉じ込められ、必死に助けを求めてドアを叩き続けていた。それでも颯斗は一切耳を貸さず、軽傷だった乃愛だけを急いで救い出し、私はそのまま火に焼かれることになったのだ。

命からがら生き延び、ようやく手に入れた静かな生活が始まったというのに、彼らは再びしつこくまとわりついてくる......

私は足を速め、人混みがいる歩道の方向へ向かって急いだ。

その時、突然甲高いクラクションの音が響き渡り、驚いてその場に立ちすくんだ。すぐに一台の車が猛スピードでこちらに向かって突進してきた。

そのまま呆然と動けなくなった私の足は、まるで地面に張りついたかのように動かなかった。

突然、誰かの手が私の手首を掴み、力強く引き寄せられて抱き込まれた。

「危ない―」

まだ息を整えられずにいる私の前で、眉をひそめ、焦った顔で見つめている颯斗が立っていた。私は反射的に彼を押しのけようとしたが、足がすくんでしまい、そのまま彼の腕から地面に崩れ落ちた。

倒れた瞬間、右脚の義足がむき出しのまま、颯斗の目の前にさらされてしまった。

驚愕に満ちた顔で、颯斗が私を見つめていた。

「お前......」

言葉を詰まらせた颯斗の横から、空が駆け寄ってきた。彼は私の義足を抱きしめるようにしながら、震える声で私に問いかけた。

「ママ、足が......どうして、どうしてママの足がなくなったの?」

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