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第262話

北は先ほどの場面を思い出すと、再び怒りがこみ上げてきた。

以前から拓海が紗希に感情を持っていることに気づいていたが、今回の出来事でそれが完全に明らかになった。

それは悪い意図ではなく、間違いなく試みなのだ!

紗希は咳払いをして言った。

「北兄さん、彼はそういう意味ではないと思う」

「どうしてそう言えるんだ。紗希、これからは拓海から距離を置くんだ。あいつは離婚歴のある年上の男で、お金があること以外に取り柄なんてないんだ。お前は絶対にあの男に惑わされるなよ」

彼女は北兄の言葉を聞いて、思わず苦笑いした。

「大丈夫。彼に恋心を抱くことはない」

以前の教訓で十分だった。

彼女は二度と同じ過ちを繰り返さないだろう。

「それならいい」

北は安堵した。

紗希が拓海のヒーロー的行動に心を奪われるのではないかと心配していたのだ。

女の子はそういうことにほとんど抵抗がないから。

すぐに検査が終わり、紗希は一般病室に移された。

間もなく豪華な食事が運ばれてきて、紗希は思わず唾を飲んだ。

北は少し驚いて言った。

「僕は注文していない」

その時、拓海が病室に入ってきて、ベッドの上の紗希を見た。

「勝手に注文した。好きなものを食べてくれ」

紗希は箸を持つ手を止めた。

まさかこれが、拓海の注文したものだとは思わなかった。

北は怒りで口元が歪みそうになった。

彼は振り向いて拓海を見て、作り笑いで言った。

「拓海、紗希は休む必要がある。外で少し話そうか?」

拓海はそばに立ったまま答えた。

「話すことはないと思うが」

彼にはライバルと話すことなんて何もなかった。

紗希は北兄の言葉を聞いて、拓海が余計なことを言い出すのではないかと心配になった。

もし北兄が、自分が渡辺家から追い出されたことや拓海の子供を妊娠していることを知ったら、大変なことになるだろう。

彼女は急いで箸を置いた。

「あの、果物が食べたい」

北は振り向いて優しい表情で言った。

「分かった。どんな果物が食べたい?すぐに買ってくるよ」

「季節の果物なら何でもいい」

北は頷き、拓海の方を向いた時、すぐに表情が変わった。

「紗希は休まなければならないので、あまり長居しないでくれ」

「......」

彼は、北のような愛人という存在の男性に、自分のことを言う資格はないと思った
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