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第9話

上村家の両親は捕らえられたが、健斗だけが行方不明だった。

玲奈は跳ねるようにけいれんする右まぶたを押さえ、不安感が胸中を駆け巡った。

そのとき、電話が鳴り響いた。

健斗の声は陰鬱で、次々と脅しを投げかけてきた。

「今、蘭は俺の手の中だ。助けたいなら金を持って廃墟ビルに来い。さもないと、彼女の命の保証はできない!」

蘭の取り乱した声が響き、助けを求め続けた。

「玲奈さん……早く助けて、怖いよ!」

玲奈はその呼びかけに一瞬驚いたものの、携帯をしっかり握り、冷静に話し出した。

「蘭を傷つけないで。いくら欲しいのか言いなさい、全部払うわ!」

そして急に声を優しくして言った。

「蘭、許してくれたのね。これであなたのお兄さんにも顔向けできるわ……」

彼女がさらに話そうとした瞬間、電話は突然切れた。

俺は眉をひそめ、蘭の態度がどうもおかしいと感じた。

考えを巡らせる間もなく、玲奈は銀行で現金を箱詰めにして目的地へ急行した。

出発前に、彼女は祖父からの電話を受け取った。向こうで吼える声が聞こえ、玲奈は察して安心させるように言った。

「心配しないで、おじいちゃん。蘭を必ず助け出すから……」

電話を切ると、焦りを振り切るようにアクセルを踏み込み、廃墟ビルに向かった。

健斗は蘭をビルの最上階に縛りつけ、その体の半分を宙に浮かせていた。

玲奈の姿を目にすると、蘭はこれまでの憎しみを一変させ、必死に懇願した。

「蘭さん、早く助けて。お兄ちゃんが私をちゃんと守ってって言ってたの、あなたが守らなきゃ!」

玲奈はその言葉に目を赤くし、冷たく健斗を見つめた。

「金は持ってきたわ。彼女を解放しなさい」

数日間逃亡していた健斗は、顔が蜡のように黄色く、追い詰められた犬のようだった。そして今、鋭い声で話し始めた。

「土下座して謝れ!そしたら考えてやる。この数日、俺はお前のせいで酷い目に遭ったんだ。少しぐらい俺を気持ちよくさせろ!」

玲奈は微動だにしなかった。健斗は目を動かして冷笑すると、椅子を押し動かした。

鋭く痛ましい悲鳴が玲奈の脳裏の緊張を断ち切り、喉をつかまれたかのように彼女は膝をつき、慌てて唾を飲み込んで、卑屈に言った。

「するわ!言う通りにする!蘭を放して!」

健斗は喜ぶどころか、さらに怒りを募らせ、目を真っ赤にして玲奈の襟をつかみ、憤然とし
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