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第96話

渡辺玲奈は「彼はどうしたの?」

常盤太郎も疑わしげに答えた。「わかりませんが、多分忙しいのでしょう」

渡辺玲奈は礼を言って、部屋のドアを閉めた。

夕食は兼家克之が持ってきた。

深夜には常盤太郎が牛乳を届けに来た。

「夫人、田中様は今夜とてもお忙しいので、宿舎に戻ってお休みにならないそうです。どうか早めにお休みください」

渡辺玲奈は……

翌日、正午。

渡辺玲奈は宿舎の本をすべて読み終えてしまい、何もすることがなく、田中一郎に会いたいと思ったが、仕事の邪魔をしたくないという気持ちもあった。5号科研楼に行って、教授たちと少し話でもしようかと考えた。

彼女が部屋で悩んでいると、ドアがノックされた。

田中一郎のアシスタントがまた来たのだろう。

渡辺玲奈は急いでドアを開けに行った。

ドアを開けると、外には見知らぬ男性が立っており、軍戦グループの護衛隊の制服を着ていた。

「夫人、こんにちは」男性は礼儀正しくお辞儀をした。

自由に宿舎の出入りができる人は、軍戦グループの内部の人員であるに違いない。

「こんにちは」渡辺玲奈も礼儀正しく会釈を返した。

男性は丁寧に言った。「田中様が、夫人を6号楼にお連れするようにと仰せです。田中様はお話があるそうです」

「6号楼は何をするところですか?」渡辺玲奈は疑わしげに尋ねた。

「プログラム設計部です」

プログラム設計部?

渡辺玲奈は少し考えてから、ドアを閉め、男性に従って外に出た。

二人は宿舎のビルを出て行き、入口に立っている二人の兵士が男性にお辞儀して挨拶をした。「副隊長、こんにちは」

副隊長は頷いて答えた。「うん、田中様が夫人を6号楼にお連れするようにと仰せだ。ここから近いので、君たちは送らなくていい」

「はい」二人の戦士は口を揃えて答えた。

なるほど、副隊長だったのか。渡辺玲奈はそれ以上疑わず、安心して彼について行った。

渡辺玲奈は男性の後ろに従い、長い道のりを歩いていった。

彼女は周囲の環境をちらりと見て、道が狭くて、両側に灌木が多くて、高いビルは見当たらなかった。

渡辺玲奈は足を止め、立ち尽くした。

副隊長は振り返って彼女を見て、「夫人、どうしたのですか?」

渡辺玲奈はますます不審に思った。彼女は5号楼の位置を知っていたので、6号楼もその近くにあるはずだった。

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