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第2話

明菜は健二がそうするのを見て、一瞬目に奇妙な光を浮かべたが、すぐに悲しそうな顔をしてこう言った。

「健ちゃんが子供を好きなことは知ってるわ……でも……」

彼女は自分の腹を押さえ、まるで辛い記憶に押しつぶされそうな様子で続けて言った。

「私は、心寧さんがあなたの子供を産んでも気にしない。健ちゃんの子供なら、誰の子でも好きになるわ」

そう言うと、彼女の目には涙が溢れ、健二に愛を満ちる目で見つめていた。

健二は明菜を一瞥し、目の前の遺体に視線を戻すと、冷たく言った。

「彼女に僕の子供を産ませるつもりはない。あいつにはそんな資格はないから」

「でも……あなたたちはもう……」

「僕は、彼女が飲んでいるビタミン剤を避妊薬にすり替えてたんだ。だから、彼女は僕の子を産むことはない」

健二の言葉を聞いて、私は頭の中が真っ白になった。

結婚して5年、子供ができない理由がわからず、何度も病院で検査を受けたが、どちらも異常はなかった。

それがすべて、健二が私のビタミン剤を避妊薬にすり替えていたからだったのだ。

私はある時、そのビタミン剤が合わないと思い、別のものに変えていた。健二はそのことを知らなかった。

だからこそ、私は妊娠できたのだ。

健二の答えを聞いた明菜は満足そうに笑って、まるで勝者のように顎を上げて、既に死体となった私を見下ろした。

私はただ、自分の夫が私の死体を解体し、それをホルマリンの中に浸けていく様子をじっと見ていた。

すべてが終わると、健二は疲れ果て、ソファに倒れ込んだ。

明菜は彼に温かいタオルを差し出し、意図的に彼の膝の上に座り、顔を寄せた。

「健ちゃん、最近疲れているみたいね。もしかして心寧さん、まだ怒ってるの?私から電話して、説明しよう」

健二は私の名前を聞いて、眉をひそめた。

それを見た明菜は、彼が私にうんざりしていることを察し、優しく彼を慰めた。

「健ちゃん、心寧さんは気が強いから、もう少し彼女に優しくして」

しかし、健二の顔にはすぐに嫌悪の表情が浮かんだ。

「あいつは嫉妬深いし、すぐにカッとなる。僕がどうしてあいつの機嫌を取らなきゃならないんだ。あいつはずっとこうしたいなら僕も構わない」

事故が起こる前、私は明菜のことで健二と大喧嘩をした。

健二は私を理不尽だと責め、私は怒って家から出てきた。

私たちが喧嘩するたびに、私はしばらく冷戦状態になる。

今回も、彼は同じように私がこうして続けると思い込んでいるのだ。

でも、彼はまだ知らない、私はすでに死んでしまった。さっき、彼は明菜を守るために私の内蔵を取り出し、自分の手で自分の妻を標本にしたこと。

……

健二は実験室の痕跡を消すため、特別な薬剤で部屋全体を徹底的に掃除した。

実験室はまるで新築のようにきれいになり、先ほどのすべてがなかったかのように見える。

ただ、私の両腕から削ぎ取られた肉片だけはどうにも処理しきれない。

「それは私に任せて!きちんと処理しておくわ」

明菜はそう言って、自らその処理を引き受けた。

健二は軽くうなずいた。

すべてが終わると、明菜は親しげに健二に抱きつき、彼の胸に頭を寄せた。

「健ちゃん、本当にありがとう。あなたがいなかったら、私はどうしていいか分からなかったわ」

健二は彼女しっかりと抱きしめ、彼女の髪にそっとキスをした。

「大丈夫だ。僕がいるかた、何も心配することはない」

結婚して5年、健二がこんなに優しい表情を見せたことは一度もなかった。

ずっと、彼は生まれつき冷たい性格なのだと思い込んでいた。私が努力すれば、いつか彼の心を温められると信じていた。

だが今、私はようやく理解した。彼は冷たいのではなく、最初から私を愛していなかったのだ。

明菜は健二に熱い視線で見つめ、彼の首に腕を絡めた。

健二は一瞬戸惑い、無意識的に私の死体にちらりと目をやった。

彼は一度拒もうとしたが、明菜の誘惑と自らの欲望に負け、彼女の唇に深くキスをした。

私は、健二が私と親密になる時、いつもキスを避けることを知っていた。彼がキスを嫌っているのだと思っていた。

しかし今、彼が明菜に情熱的なキスをする姿を目の当たりにして、ようやく理解した。

彼がキスを嫌っていたわけではない。ただ、私とのキスが嫌だったのだ。

私は冷ややかな目で、私の死体の隣で絡み合っている二人を見ていた。

その場を離れようとしたが、どこにも行けなかった。

私は死んでから魂となり、どこにも行けず、ただ健二に付きまとわざるを得ないのだ。

生きていた時は彼に無視され、死んでからもなお、彼の裏切りを目の当たりにしなければならない。

二人が夢中になっている最中、健二の携帯が鳴り響いた。

不機嫌そうだ顔で彼は携帯を手に取り、画面を見ると、それは彼の母親からの電話だった。

彼はためらうことなくその電話を切り、再び明菜に身を預けた。

ふと、私は思い出した。今日は彼の母親と病院に行く約束をしていたことを。

もう夜だというのに、私は姿を見せず、連絡も取れない。

きっと、彼女は心配しているのだ。

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