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第422話

とわこは、妊娠していた。

報告によれば、彼女が妊娠したのは、あの日、奏がナイフで自分の心臓を刺した夜だった。なんて皮肉なことだろう。

彼らの関係はここまでこじれていたのに、彼女は彼の子を身ごもってしまったのだ。

その瞬間、彼女は驚いで言葉も表情も失った。

心の中で渦巻く感情を表す言葉が見つからなかった。

ちょうど、彼女が以前、レラと蓮を妊娠した時も同じように苦しかった。

あの時、奏は離婚を迫ってきた。

しかし今は違う。今の彼女は経済的に独立していて、自分で子供を育てることができる。たとえ1人、2人、いや、3人になっても問題ない。

ただ、このことを彼に伝えるべきだろうか?

かつて、はるかが流産したとき、奏はその責任を彼女に押し付け、彼女に「子供を返せ」と言った。

今はもう二人は連絡を取っていないが、万が一、将来彼がまたこの件で彼女に何かを求めてくるかもしれないと考えると、少し不安がよぎる。

その時、マイクはとわこの慌てた表情に気付き、すぐに彼女のそばに駆け寄り、彼女のスマホを覗き込もうとした。

だが、彼女は素早くスマホの電源を切り、画面を真っ暗にした。

「体検結果、何か問題あったのか?すごい顔してたぞ」マイクは彼女のスマホを取り上げようと手を伸ばしたが、とわこはそれをかわした。

「大丈夫よ……ただ、ちょっと貧血みたい」彼女は適当な理由をでっち上げた。「ところで、午後は少し用事があるから会社には戻らないわ」

「なんの用事だ?」マイクは疑いの目を向けた。

「個人的なことよ。そんなに詮索しないで。君だって俺に知られたくないことは聞かれたくないでしょ?」

「いや、俺には隠すようなことなんてないけど?」

「私はあるのよ。だから、今は話せないわ」とわこは淡々と答えた。

「じゃあ、いつになったら話してくれるんだ?」

エレベーターの扉が開き、とわこは先に降りながら、「話したい時になったら話すわ」と言い残した。

マイクは眉をひそめて、「まさか、奏に会いに行くつもりじゃないだろうな?自分を滅ぼすつもりか?あいつ、前回は自分を刺したけど、次は君を刺すかもしれないぞ」と冗談めかしながらも、警戒して言った。

その言葉に、とわこの背中に冷たい汗が流れた。

「彼には会いに行かないわ」と彼女はきっぱり答えた。

「ならいいさ。それなら俺も何も言わない」マ
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