第312話

この質問に、彼女はしばらく沈黙した。

「中村さん、あなたは誰かを愛したことがあるの？」彼女は静かに口を開いた。「もし愛したことがあるなら、私の気持ちは理解できるはず」

中村真は首を振った。

「誰かを愛するということは、所有欲が生まれるものだ。私は彼のすべてが私のものであってほしいし、彼の目には私しか映ってほしくない。そして、その感情が余すこともなく、純粋であることを望んでいる」彼女は口元に微笑を浮かべた。「でも、あなたも見たように、彼には結菜がいる。彼は結菜を治すために、自分を犠牲にさえしている」

「最初、結菜が知的障害を持っていると知らなかった時、彼女は私にとって心の中の棘のような存在だった。でも、彼女が普通ではないと知った後、その敵意は徐々に薄れていきた。もし私が第二回目の手術を結菜に施すかと問われれば、できる。でも、私はそれをしない」

中村真は彼女をじっと見つめた。

「もし常盤奏が、最初の手術を私が行ったと知ったら、彼はどんな反応をすると思うか？」とわこはワインボトルを手に取り、グラスに少しだけ注ぎながら、ゆっくりと話した。「彼が小林はるかに対してどう感じているか見てみて。彼は小林はるかに感謝していて、小林はるかがどんな要求をしても応じている……中村さん、他の女性のために私に感謝されるなんて、そんな結果は欲しくない」

とわこは苦笑を浮かべた。「そんなもの、私はいらない！」

中村真は彼女の前のワインボトルを取り上げた。「とわこ、君の言いたいことは分かったよ。常盤奏は君に完璧な愛を与えることができないから、君はそれを望んでいないんだね」

「それだけじゃない。彼は私に相等しい愛情を与えることができないばかりか、私の子供たちの父親にもなれない！」とわこは一杯だけのワインを飲んだにもかかわらず、顔が赤く、声には痛みと恨みがこもっていた。「彼は私たちの子供たちを望んでいない！なのに、どうして小林はるかを妊娠させたの？どうして彼女に中絶を強要しなかったの？おかしいわ！」

中村真は彼女にジュースを注いで渡した。「とわこ、そんなに怒らないで」

「ママ、怒らないで！」レラはとわこの腕を引っ張り、「私とお兄ちゃんにはダメなパパなんかいらないよ！ママがいれば十分だもん」

とわこは娘の丸い頭を撫で、目に微笑を浮かべた。「ママは怒ってないよ。ママは自分をもっと冷静