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第4話

老夫人は無理に笑みを浮かべた。「好き嫌いなんて、初対面でわかるものじゃないわ。でも、陛下のご命令なのよ。これからは琴音と守が一緒に軍功を立て、あなたは屋敷を切り盛りする。二人が戦場で勝ち取った恩賞を享受できるのよ。素晴らしいじゃない」

「確かにそうですね」さくらは皮肉っぽく笑った。「琴音将軍が側室になるのは気の毒ですが」

老夫人は笑いながら言った。「何を言うの、お馬鹿さん。陛下のお命令よ。側室になるわけがないでしょう。彼女は朝廷の武将で、官位もある。官位のある人が側室になれるわけないわ。正妻よ、身分に差はないの」

さくらは問いかけた。「身分に差がない?そんな慣習がありましたか?」

老夫人の表情が冷たくなった。「さくら、あなたはいつも分別があったわ。北條家に嫁いだからには、北條家を第一に考えるべきよ。兵部の審査によれば、琴音の今回の功績は守を上回るわ。これから二人が力を合わせ、あなたが内政を支えれば、いつかは守の祖父のような名将になれるわ」

さくらは冷ややかに答えた。「二人が仲睦まじくやっていくなら、私の出る幕はありませんね」

老夫人は不機嫌そうに言った。「何を言うの?あなたは将軍家の家政を任されているでしょう」

さくらは言い返した。「以前は美奈子姉様の体調が優れなかったので、私が一時的に家政を引き受けておりました。今は姉様も回復なさいましたので、これからはは姉様にお任せします。明日に帳簿を確認し、引き継ぎを済ませましょう」

美奈子は慌てて言った。「私にはまだ無理よ。体調も完全には戻っていないし、この一年のあなたの采配は皆満足しているわ。このまま続けてちょうだい」

さくらは唇の端に皮肉な笑みを浮かべた。皆が満足しているのは、自分がお金を出して補填しているからだろう。

補填したのは主に老夫人の薬代だった。丹治先生の薬は高価で、普通の人では頼めない。月に金百両以上もかかり、この一年で老夫人の薬代だけで千両近くになっていた。

他の家の出費も時々補填していた。例えば、絹織物などは、さくらの実家の商売だったので、四季折々に皆に送って新しい服を作らせていた。それほど痛手ではなかった。

しかし、今は状況が変わった。以前は本気で守と一緒に暮らしたいと思っていたが、今はもう損をするわけにはいかない。

さくらは立ち上がって言った。「では、そのように決めましょう。明日引き継ぎをして、これからは家のことには関与しません」

「待ちなさい!」老夫人は焦って、表情が一気に曇った。「さくら、これじゃ分別がないわ。男というのは誰だって妻妾が多いものよ。これくらいで気を悪くするなんて、世間は狭量で嫉妬深いと言うわよ」

おそらくさくらがこの一年あまりにも従順で、性格も押しが弱く見えたため、彼らは勘違いしていたのだろう。少し厳しい言葉をかければ、彼女を抑え込めると思っていたのだ。

さくらは冷静な表情で、いつもの従順さを一変させて言った。「他人の口は私にはどうしようもありません。彼らが何を言おうと、私には関係ありません」

老夫人は怒りで喉に痰が詰まり、しばらく咳き込んだ。普段なら、さくらが近寄って背中をさすっていただろう。

しかし、さくらはじっと立ったまま動かなかった。夕日の淡い光が彼女の白い顔に当たり、一層美しく、まるで絵の中の人物のように見えた。

「さくら姉様、母上をこんなにお怒らせて」三女の涼子が前に出てきた。少女らしい丸顔で、頬を膨らませてさくらを睨みつけた。「あなたに何の不満があるのよ。もう侯爵家は昔の栄華はないのよ。あなたの父や兄弟、母上もみんないなくなって、あなた一人きりでしょう。まだ名家のお嬢様気取りで意地を張るの?守お兄様に離縁されても構わないの?」

さくらはこの義理の妹を見た。彼女が着ている杏色の着物は、秋に入った時に作らせたものだった。自分の服を着て、自分を責めているなんて、よくできた子だこと。

さくらは冷ややかに言った。「その着物を脱いでから、私に偉そうに言いなさい」

涼子は顔を赤らめて怒った。「この服だってねだって作ってもらったわけじゃないわ。要らないなら要らないで、後で返してあげるわ」

「そう、それと頭の珠飾りも一緒に返してちょうだい」さくらは言い終わると、部屋中を見渡した。第二老夫人のさよ子以外は皆渋い顔をしていた。

「もう用はないでしょうか?では失礼します」さくらはそう言うと、大股で部屋を出て行った。

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