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第452話

親房夕美は焦って言った。「本当のことを申し上げているんです。外の噂は真実ではありません。ほとんどが北冥親王妃の嫉妬心からの中傷です。それに、先日将軍家に糞尿をかけられた事件も、彼女の差し金なんです」

裕子は踵を返して歩き出した。足取りはよろめき、顔色は蒼白だった。夕美の言葉は彼女に大きな衝撃を与えたのだ。

三姫子の話を聞いた時、夕美が北條守と結婚することに同意したとしても、本当に好意を抱いているわけではないだろうと思っていた。

しかし、夕美の言葉を聞いて、裕子は全身が凍りつくような思いがした。信じられないほどだった。夕美が十一郎をあの人でなしの北條守と比べるなんて。

裕子は天方夫人のもとへ戻り、甥の嫁の手をしっかりと掴んだ。そうしなければ、感情を抑えきれず、恵子皇太妃の誕生日宴を台無しにしてしまいそうだった。

天方夫人は裕子を劇場に連れ戻して座らせた。上原さくらがそれを見て尋ねた。「具合が悪いのですか? よろしければお帰りになって休まれては? これからも機会はたくさんありますから」

「王妃様、ご心配なく。大丈夫です」裕子は激しい感情を抑えながら、なんとか礼儀を保とうと努めた。

さくらは言った。「では、私が花の間までお供しましょうか? 少しお休みになられては」

「とんでもございません。王妃様はここにいてください」天方夫人は急いで言った。「お客様がたくさんいらっしゃいます。王妃様にはここを取り仕切っていただかねば」

さくらは頷いた。「分かりました。では、芝居をご覧になってください。他のことは何も考えないで」

彼女の目は少し離れたところに立つ親房夕美に向けられた。夕美はさくらの視線に気づくと、すぐに目をそらした。複雑な表情を浮かべていた。

さくらは先ほど二人が話しているのを見ていたが、これは二つの家の問題だ。口を出すべきではない。天方家の人々を心から招待したのだが、夕美がついてくるとは思っていなかった。

しばらくすると、男性の客たちも次々と庭園に姿を現した。これほど大きな宴会で、しかも広々とした場所だったので、男女の礼儀作法もそれほど厳しくなかった。

とはいえ、同じ庭園で花見をしているとはいえ、ある程度の距離は保たれており、直接接触することはなかった。

さくらがみんなと一緒に芝居を見ようと座ろうとした時、皇太妃付きの心玲が男性客の方へ向かうのが
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