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第179話

影森玄武は春長殿を後にすると、慈安殿へ向かい、太后に挨拶をするとともに、上原さくらとの結婚の許しを請うた。

太后はそれを聞いて大変喜び、「まあ、あなたったら。黙っていて大事を成し遂げたのね。二ヶ月前、あなたの母が結婚のことを心配していたのに。まさか戦場でさくらと出会って、一目惚れするなんてね。さくらは良い娘だから、大切にするのよ」と語りかけた。

玄武は答えた。「はい、母上。さくらを大切にいたします。ただ、母がさくらをあまり好んでいないようで、この一両日のうちに宮中に呼び出して、威圧するのではないかと心配です」

太后はすぐに、この若者が遠回しに助けを求めていることを察した。慈愛に満ちた目で優しく言った。「安心しなさい。私がいる限り、さくらが不当な扱いを受けることはないわ」

玄武は丁重に頭を下げて感謝した。「では、すべてお任せいたします」

太后は彼を見つめ、一瞬複雑な表情を浮かべたが、すぐに平常に戻った。戦場での出来事や、怪我をしなかったか、今は回復したかを尋ねた。

玄武が一つ一つ答えると、太后は御典医を呼んで診察させ、体調を整えるための薬を処方させた。

典薬寮には滋養強壮の薬がたくさんあり、玄武は大量の薬を抱えて宮殿を後にした。

時折、玄武は考えることがあった。自分は誰の子なのだろうか、と。母は決してこういったことを気にかけない。

先日の祝勝宴の後、酔った彼が春長殿に運ばれた時も、母は興奮して「邪馬台の領土を取り戻したのは歴史に残る偉業よ。私たち母子は世界中の注目を集め、歴史に名を残すわ」と言うばかりだった。

母は彼が苦労したか、怪我をしたかなど一言も聞かなかった。戦場での出来事には一切関心がなく、結果だけを気にしていた。

しかし、玄武は母を恨むことはなかった。母はいつもそうだった。自分の感情だけを大切にし、周りの人間は全て母の周りを回るべきだと思っているのだ。

母性愛がないとは言えない。ちょうど良い量の愛情で、母子の淡い関係を保っている。憎しみを感じさせることもなければ、期待させることもない。

玄武が去った後、太后は長椅子に横たわり、目を閉じて休んでいた。長い間、一言も発しなかった。

側仕えの老女官、三島みつねは傍らで待機していた。太后が眠ったように見えたので、そっと薄い毛布を取り、太后の腹部にかけた。

天気は暑かったが、宮殿の中は日が
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