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第5話

私は新しい生活を始めることにした。日々の家事に縛られることなく、自分の時間を大切にしようとしている。

街角の風景、雨音、些細な光景に心が躍る。

写真を撮り、文章を書き、日々の出来事を記録していく。

思いがけず、SNSでちょっとずつ「いいね」がついていった。

一週間後、突然藤田彦治から電話がかかってきた。

「西山プロジェクトの資料がどこにあるか分かる?できれば連絡したくなかったんだが、家中の棚を探しても見つからなくて」

焦りの混じった声だった。

少し考えてから答えた。

「この前、トイレでも資料を見ていたって言ってたから、トイレの本棚を見てみたら?でも、確実じゃないけど」

「トイレも探したよ。見つからない」

諦めたような声で返ってきた。

「最新の企画書なら、書斎のパソコンに保存してあるわ。印刷できるはず」

「ああ」

がっかりしたような声。

きっと、まだ私と関わりがあることへの失望なのだろう。

資料が見つかったことへの失望だなんて、思い上がるつもりはない。

「すまない。最近、元気にしてる?」

突然、低い声で尋ねてきた。

「ええ」

そっけなく答えた。

「そう......」

困惑したような声。

気まずい沈黙が流れ、私が口を開いた。

「全ての資料は寝室のナイトテーブルのUSBにまとめてあるから。これからは自分で探して。もう連絡する必要はないわ」

長い沈黙の後、重たい声で「分かった」という返事が返ってきた。

電話を切るとすぐに、彼の番号をブロックした。

せっかくの明るい気持ちが、また暗くなっていく。

理想的な元夫は、死んだも同然であるべきだ。

私が藤田彦治に惹かれたのは、孤独と愛情への渇望からだった。

彼が私に惹かれたのは、母親の愛情に飢えていたからかもしれない。

私は施設で年長者として、母親のように下の子の面倒を見てきた。

七年という歳月で、私は彼の生活の一部となり、彼は私に依存していた。

きつい言い方になるけど、私はタダ働きの世話係。たまたま山本つづみに顔が似ていただけ。

たまたま山本つづみに似ていただけ。

お互いに必要なものを得て、今は私が仕事を辞めたようなもの。

でも雇用主は大切な何かを失ったと気づいたようだ。

また電話が鳴った。見知らぬ番号からだ。

就職活動の返事かと思い、急いで出た。

「もしも
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