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第4話

嘱言は私の命そのものだった。

この世で唯一の肉親であり、私の全てを注いだ家族。

いつから嘱言を手放そうと思い始めたのだろう。

おそらく、心を込めて作った料理を蔑ろにされた、あの日から。

朝四時から仕込んだ鶏がらスープを床にぶちまけ、その上を踏みながら目を真っ赤にして叫んだ。

「つづみおばさんとケンタッキーに行きたい!こんなスープなんか飲みたくない!」

息子は眉をひそめ、涙目で私を睨みつけた。

「パパの言う通りだよ。ママは本当に口うるさいんだ。これもダメ、あれもダメって。もう嫌いだ!」

そう叫んで部屋に駆け込み、ドアを乱暴に閉めた。

私はダイニングテーブルの前で立ち尽くしたまま。何もできず、胸が締め付けられるような思いだった。

床に広がる薄い黄色のスープと油。割れた食器の破片。

まるでこの家のように、すべてが散り散りになっていた。

今思えば、私はいつも真面目すぎたのかもしれない。

それとも、あの十五夜の日からだろうか。

家族団らんの象徴とも言える特別な日に、息子を迎えに行けなかった時から。

藤田彦治に早く帰るよう頼み、私は息子を迎えに行くと約束した。

幼稚園の門前に三十分も早く着いたのに、下校時間になる直前に警備員に止められた。

担任は私を指差して言った。

「先日の親子行事の時と違う方です。藤田嘱言のお母様は別の方でした。

お顔は似ていますが、雰囲気が全く違います。当園は一流の幼稚園です。園児の安全を第一に考えなければなりません」

先生の言葉に、私は何も言い返せなかった。

息子の通う園でさえ、私を他人だと思っているのだ。

警察に連れて行かれ、事情を聞かれた。

午後、嘱言が気分が悪いと言い、スマートウォッチで連絡を取り、「ママ」に迎えに来てもらったという。

警察から連絡を受けた家族が現れた時、初めて警察のお世話になった嘱言は山本つづみに寄り添っていた。

その後ろには、颯爽とした藤田彦治の姿。

「仲睦まじい家族三人」の姿が、私の目に痛いほど焼き付いた。

警察官が嘱言に尋ねた。なぜおばさんについて行ったのかと。

「つづみおばさんが好きなの。いい香りがするし、きれいだから。

この前の幼稚園の行事も、つづみおばさんと一緒に来てくれて、みんなが羨ましがってたんだ。

ママがパパと離婚するって言ったから、これでパパはつづみお
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