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第6話

疾斗は画面も確認せず、待ちきれない様子で電話を取ると、たまった不満を吐き出した。

「楓香、お前遅いんだよ。ずっと待ってたんだぞ」

ところが、受話器の向こうから聞こえてきたのは美月の声だった。

「疾斗、私だよ」

一瞬の静寂が流れたあと、疾斗は冷静さを取り戻した声で答えた。

「美月......何か用か?」

「疾斗、私のために停職になったって聞いたの。ごめんなさい......全部私のせいで、あなたに迷惑かけちゃって......」

そう言いながら、美月の声は涙に震え始める。

「ねぇ、今どこにいるの?私がそっちに行こうか?」

疾斗は深く息をつき、心の中で何か大きな決断をしたようだった。

「美月......楓香が君のことで一週間も冷戦状態なんだ。これからは、少し距離を置こう」

そう告げると、疾斗は電話を一方的に切った。

その後、彼はブルーベリーケーキを買うためにケーキ屋に立ち寄り、家に帰ってきた。

ところが、ドアを開けても私の姿はなく、上機嫌だった顔もすぐに曇ってしまった。

すぐさまスマホを取り出して私に電話をかけたが、電源が切れていることに気づくと、彼は苛立ちを隠せなくなる。

「楓香、謝ったんだから、もう機嫌直せよ、まだ足りないのか?

楓香、3秒以内に電話を返さなかったら承知しないぞ!」

そうメッセージを送ったあと、疾斗は何度もスマホの画面を確認したが、私からの返信はなかった。

彼の態度は、最初の強引で高圧的なものから、次第におそるおそる私の機嫌をうかがうようなものに変わっていった。

「楓香......君の好きなブルーベリーケーキを買ったんだぞ。明日になるとおいしくなくなるから。

美月とは、これから距離を置くことにする。

一か月の休暇があるんだ。北極に行ってオーロラを見に行かないか?」

付き合い始めてから、彼がこんなふうに下手に出て私を機嫌をとろうとしたのは初めてのことだった。

私は思わず嘲笑がこぼれた。

そうだったんだ......彼も私が何を好きで、何を望んでいたのかちゃんとわかっていたんだ。

ただ、これまではそのことに価値を感じていなかっただけ。

もちろん、彼がどんなにメッセージを送ろうと、その返事が返ることは、もう決してないのだけれど。

疾斗は次第に焦り始め、私の家族や友人に連絡を取ろうと電話帳を必死に探したが、見つ
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