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第3話

それなら......私はずっと、美月がいない時の「代わり」に過ぎなかったということなの?

第一病院に着くと、疾斗は自分が血液センターの責任者だと名乗り、血液を届けに来たことを伝えた。

ちょうど私を救おうとしてくれた女性医師が、疾斗が運んできた血漿の袋を見るなり、険しい表情で言った。

「もう結構です。あなたの不始末で、この患者さんは亡くなりましたから」

その瞬間、気のせいかもしれないが、美月がほっと安堵の息をついたように見えた。

もしかして......彼女は亡くなったのが私だと知っているの?

血液センターの責任者である疾斗が、ここまで面と向かって非難を受けることは滅多になかったらしく、怒りをあらわにした。

「俺がどう不始末をしたっていうんだ?第三病院の患者のほうが先に血液を依頼してきたんだ。そちらを優先するのは当然だろう」

「でも、だからといって、センターのRH陰性血をすべて持っていく必要があったんですか?」

女性医師はベッドの上に横たわり、白い布で覆われた私を指差して言った。

「この患者は400ミリリットルの輸血ができれば、それだけで生き延びられたかもしれなかったのです。

若い命が一つ......あなたが職権を濫用したせいで、ただ無情に消えていったんです」

疾斗はちらりと一瞥するだけで、冷たく言い放った。

「私の決断には、私なりの理由がある。この立場になってから物を言ってもらおうか」

美月はすぐに涙を浮かべ、儚げな声で言った。「全部私が悪いの......だから、どうか疾斗を責めないで。これからはもう二度と死のうだなんて思わないわ。皆さんに迷惑をかけたりしないから」

彼女は自分の「涙ながらの反省」が、周囲の同情を誘うとでも思っていたのだろう。

けれど、病院の医師も看護師も、その芝居には全く興味を示さなかった。

一人の女性看護師が、美月の手首に巻かれた包帯を見て、冷ややかに言った。

「本当に死にたいなら、次は人のいない場所でお願いしますよ。今度も失敗して、誰かの命を巻き添えにするようなことにならないように」

美月の顔が青ざめ、今にも泣き出しそうな声で疾斗にすがりつく。「疾斗......本当なの?私のせいで、誰かが犠牲になったの?」

疾斗は美月の肩に手を置き、優しく慰めるように言った。「美月、気にしないで。彼らが勝手に言ってるだけだ。人には、「運命」というものがある。あの患者も......運命に逆らえなかっただけなんだよ」

運命に逆らえなかった......私の命は、絶対に助からなかったっていうの?

疾斗......私の命はもともと、あなたが命がけで救ってくれたはずなのに!

あの日、私は路地裏で二人のチンピラに襲われ、身を守るために咄嗟にレンガを拾って一人の頭に叩きつけた。怒ったチンピラは懐からナイフを取り出し、こちらに向かってきたのだ。

その時、疾斗が偶然通りかかって助けてくれたのだ......彼も刺されて負傷し、入院してしまったけれど。

それがきっかけで、私は彼を好きになってしまった......どうしようもないくらいに。

周りの看護師たちが、親しげな二人の様子を見てひそひそと話し始めた。

「確か血液センターの責任者って既婚者だったよね?この女の人、不倫相手じゃないの?」

「たぶんね。あの香水の匂い、もう溢れ出てるじゃない」

「うわぁ......自分の愛人を助けるために職権を濫用して、罪のない人の命を奪うなんて、不道徳だよ」

周囲のざわめきを聞いた疾斗は、美月が非難されていることに怒りを隠せず、抗議しようと足を踏み出したが、美月がその手をぎゅっと握り、二人の指が絡み合う。

「疾斗......いいの。私たちのことなんて、わざわざ彼らに説明する必要なんてないわ。行きましょう」

疾斗は車椅子を押して、二人で病院を後にしようとした。

その時、私の遺体を霊安室に運ぼうとした看護師が、足元を覆っていた白布をふとした拍子にめくってしまった。

その瞬間、疾斗の目が私の足元にとまり、彼の体が硬直する。

私は宙に浮かんだまま、思わず緊張で胸が高鳴った。

疾斗、気づいたの?

このスニーカー、あなたがくれたものだよ。

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