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第2話

私は、つい最近になってやっと彼のスマホの履歴を見て、気づいてしまったのだ。疾斗の「忘れられない女性」―篠宮美月がこの国に戻ってきていたことに。

疾斗は私に冷たく罵声を浴びせ、電話を一方的に切ってしまった。もう一度かけ直してみたが、私の番号はすでにブロックされていた。

暗く沈んだ画面を見つめながら、思わず自嘲気味に笑ってしまう。これが初恋の威力なのだろうか。

彼女が戻ってきたことで、私は疾斗の心の中から、まるで存在しないかのようにされてしまったようだ。

血が流れ続け、命が少しずつ削られていく感覚がある。体から力が抜け落ちていき、足の痛みさえもぼんやりと遠くなっていくのがわかる。

ぼんやりと意識が薄れゆく中、彼と出会ってからの出来事が次々に浮かんでくる。そして最後に、ほんの一週間前のことが目に浮かんだ。疾斗が怒りをぶちまけてドアを叩きつけるようにして出て行った、あの瞬間が。

その時も、病院の医師が血液センターの看護師に緊急の連絡を取っていた。

「そちらの血液センターは一体どうしてこんな重大なミスを犯したんです?市内の血液をすべて一人にまわすなんて!他の患者はどうすればいいんですか?」

看護師が私の手を握りながら、優しい声で言う。

「しっかりしてくださいね。今、病院で血液を確保する方法を探していますから......頑張って持ちこたえてください」

それでも私はもう待てないとわかっていた。

一番愛した人に、私の生きる希望を奪われたのだ。

私は、最後の力を振り絞り、かすれた指で彼に最後のメッセージを送る。

「神崎疾斗、あなたに、命を返すわ」

この命はあなたに救われ、そしてあなたによって奪われるのだ。これでもう私は、何も背負うことはない。

その瞬間、私の魂が強い引力で吸い上げられ、気がつくと、目の前には疾斗の姿があった。彼を見るのは一週間ぶり......こんな形で再会するなんて、思いもしなかった。

疾斗は、私からのメッセージを見ていた。

そして、メッセージを読み終えると、鼻で軽く笑いながら返信を打ち始めたのだ。

「楓香、死ぬだの生きるだの、そんなことで気を引こうとしても無駄だ」

疾斗はそう返信してから、しばらく待っていたが、私からの返事がないことが不満らしく、再び眉をひそめてもう一通メッセージを送ってきた。

「楓香、随分度胸がついたんだな?俺のメッセージを無視するとは、いい気なものだ」

以前なら、電話でもメッセージでも、彼からの連絡にはいつだってすぐに返信していた。彼を待たせることなんて一度もなかった。

だけど今、私はもう死んでしまったから、彼に返信することもできない。

そんな時、疾斗の携帯に血液センターからの電話がかかってきた。

「神崎センター長、第一病院からRH陰性の血液を至急送ってほしいとの要請がありました。女性がひどい事故に遭っており、このままでは命が危険です」

「こちらも、第三病院の患者がRH陰性の血を必要としている。ドナーを見つけられないか確認して、直接第一病院に送ってもらえるようにしてくれ」

疾斗はすっかり生死の場面を見慣れていて、大切な人を優先して血を使うことを当然だと思っていたのだ。

しばらくすると、手術室のランプが消え、美月がベッドに横たわったまま運び出されてくるのが見えた。

疾斗は待ちきれない様子で駆け寄り、美月の手をぎゅっと握った。「美月......もう二度と、自殺なんかしないでくれ。俺のために、お願いだ」

美月は涙を浮かべながら、どこか儚げにうつむく。「ごめんなさい、疾斗。心配かけちゃった......ほんの一瞬、死んでしまおうって思っちゃったの。もうしないわ」

疾斗はようやく安堵の息をついた。

「少し休んでいなさい。俺は第一病院に血漿を届けに行ってくるから。あちらでも患者が輸血を待っているんだ」

しかし、美月は疾斗の手をぎゅっと掴み、「疾斗......あなたのそばにいたいの」と静かに訴えた。

結局、疾斗は彼女のために車椅子を用意し、二人で第一病院へ向かうことにした。

二人が寄り添いながら病院の廊下を歩いていく、その背中を見つめる私は、ただただ、苦しみと寂しさに胸が締め付けられるのを感じた。

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