共有

第5話

美月の胸元がわずかに覗くのが目に入った疾斗は、慌てて自分の上着を取り、彼女の肩にかけた。

美月が涙を浮かべ、か細い声で言う。「ねぇ疾斗......私のこと、嫌いになっちゃった?」

「そんなことない!ただ......」疾斗は答えに詰まり、言葉が出てこない。自分でも、自分の心が何を望んでいるのか分からなくなって、苛立ちから頭を掻く。

美月の目からは大粒の涙が次々と溢れ、「私ね、あの時、本当に無理やり留学させられたの......その後、結婚させられたのも両親のせいだったの

疾斗、私がアメリカにいた間、一日もあなたを忘れたことがなかったの。それで、あまりに辛くて鬱になってしまったのよ......」

美月の泣き顔に心が揺らいだ疾斗は、彼女を優しく抱きしめ、背中をそっと撫でた。

二人は寄り添ったまま、夜が明けるまでずっとそのままだった。

そして私も、その様子をただ宙に漂いながら一晩中見つめていた。

いつの間にか、怒りや悲しみ、悔しささえも消え去り、心にぽっかりとした虚しさが広がっていた。何か大切なことを忘れている気がするのに、どうしても思い出せない。

朝になり、疾斗は美月に朝食を作ってから、急な電話で慌ただしく出かけることになった。

昨夜の件が上層部に報告され、疾斗は個人的な理由で輸血が必要だった患者を見捨てたとして、1か月の停職と反省を命じられたのだ。

血液センターを出た疾斗は、どこか放心したように車を運転し始めた。私の魂も彼に引かれるように、ただ彼について漂うだけだった。

そして彼は月見公園に車を止めると、スマホを取り出し、私の番号をスクロールして探し、発信ボタンを押した。

だが、ほんの数秒でその呼び出しを切ってしまう。

その後、彼はメッセージを打ち始めた。

「楓香、九時までに月見公園に来れば許してやる」

メッセージを送信した後、疾斗の口元にはうっすらとした笑みが浮かんでいた。

きっと、私が喜んで駆けつけると信じて疑っていないのだろう。だって、これまでにも同じようなことが何度かあったから。

私たちが付き合い始めて間もない頃、私は彼が大切にしていたガラス製のスノードームを誤って割ってしまったことがある。

その時はまだ知らなかった。あのスノードームが美月からの贈り物だったなんて。

私は謝罪して、同じデザインのものを購入して渡したのに、疾斗
ロックされたチャプター
この本をアプリで読み続ける

関連チャプター

最新チャプター

DMCA.com Protection Status