第89話

　圭介は相変らずそっけなかった。「放っておけ」

　そう言い残して階段を上がっていった。

　佐藤も勝手に判断することができず、

深いため息をついた。

香織を心配していたが、圭介に逆らうことはできなかった。

それに、香織が間違っているとも思っていた。

彼女はどうして逃げ出したのだろう？

圭介が怒るのも当然だった。

香織がいなくなっている間、美穂は圭介に取り入ろうと機会をうかがっていた。

圭介が彼女を無視していても、毎日料理を作っては持ってきて、圭介の心を掴もうとしていた。彼女は自分が別荘に住み、若奥様の座に就くことを望んでいた。

今日も同じだった。

佐藤は彼女が来ることにほとんど慣れていた。

佐藤は彼女から物を受け取りながら言った。「平沢さん、旦那様はあなたに会いたくないと言っています。帰ってください」

美穂はあきらめなかった。「それはあなたが言っているの？それとも圭介が？」

「旦那様は何度も言いましたよ。まだ質問する必要がありますか？」佐藤は彼女を言い負かし、黙らせた。

佐藤は美穂のようにしつこい女性が嫌いだった。

まるでしつこい粘着物のように、

旦那様が彼女を嫌っているのに、恥知らずに近寄ってくる。

「平沢さん、旦那様はもう結婚しています。もう来ないでください」佐藤は本当に彼女に会いたくなかった。

美穂は辛抱強く言った。「知ってる。でも香織はもう消えたでしょう？」

「若奥様は帰ってきました。だから、既婚者を狙うのはやめてください」佐藤はそう言い終わると、扉を閉めた。

佐藤は通常通り物をゴミ箱に捨てるところだったが、ふと立ち止まり、食材が良いものだと気づいた。考え直し、それを地下室に持って行き、香織の体調を整えるために使うことにした。

美穂は香織が戻ってきたと聞いて驚き、しばらく呆然としていた。

佐藤が出てくるとすぐに彼女の腕を掴んだ。「本当に香織が戻ってきたの？」

佐藤は答えた。「旦那様が直接連れ戻したのですよ。噓ではありません」

美穂の手はじわりと締まった。香織が外で死んでいればよかったのに。どうして戻ってきたのか？

彼女は香織さえいなければ、圭介が自分を受け入れると思い込んでいた。

この女は永遠に消えるべきだ。

そうすれば、圭介と自分の間に誰も立ちふさがることはない。

彼女は心の中で決意し、表情は穏やかに