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第75話

 香織はうつむきながら視線を戻し、目の奥に一瞬だけ感情がよぎり、すぐに消えた。

 半時ほどして、彼女は料理を終えた。

 簡単な家庭料理だ。

 特に凝ったものはない。

 圭介はダイニングテーブルに座り、目の前に一人分しかないのを見て、「君は食べないのか?」と尋ねた。

 香織は「お腹は空いていない」と答えた。

 彼女もテーブルに座り、すぐには部屋に戻らず、食べはしないが彼のそばにいた。

 夫婦らしい時間とでも言えるだろうか?

 結婚証明書があるだけで、他の部分は夫婦らしくないけれど。

 今日は珍しく和やかだった。

 ……

 翌朝、二人で朝食をとった。

 「会社に行くから、ついでに君を病院に送ろう。」圭介が言った。

 香織は自分がもう病院で働いていないことを彼に伝えなかった。

 彼女はうつむきながら食べ物を口に運び、「今日は病院に行かない。」と答えた。

 圭介は彼女の体調がまだ回復していないのだと思い、それ以上何も言わなかった。

 「総合病院の正式な医師にしてあげられるけど……」

 「いらない。」彼女は微笑んで顔を上げた。

 圭介の好意が、まだ慣れなかった。

 以前なら、彼の申し出に感激していたかもしれない。

 しかし今、彼女はその仕事を必要としていなかった。

 圭介は眉をひそめ、彼女の態度がいつもと違うと感じた。

 いつもなら、少しは言い返す彼女が、今は静かだった。

 彼は数秒間彼女を見つめたが、何も読み取れず、最後に食卓を立ち去った。

 香織はゆっくりと朝食を続けた。

 ドアが閉まる音が聞こえると、彼女は振り返った。

 食事を終えた彼女は佐藤に言った。「私、あとで服を取りに行く。」

 「はい。」佐藤は家具を拭いていて、振り返りもせずに答えた。

 彼女は不要なものを捨て、外出した。運転手がクリーニング店まで送ってくれた。

 彼女はクリーニング店で服を受け取り、車に戻ると、運転手に言った。「ショッピングモールに行きたいの。」

 運転手が彼女をモールまで送った。

 彼女は服を持って車に戻り、「モールで服を交換したいから、駐車場で待っていて」と言った。

 運転手は「はい。」と応じた。

 彼女は服を持ってモールに入り、

それから姿を見せなかった。

午前中から昼過ぎまでの三、四時間、運転手は女性の買い物は時間が
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