第411話

　斎藤は山本を一瞥した。「彼は天聚を離れただけ、ビジネス界を離れたわけではない。どうした、圭介君と協力する気があるのか？」

山本は恥ずかしさで、どこかに隠れたい気持ちだった。

顔は酒を飲んだように真っ赤になった。「そう思っているんですが、水原社長には私のことを気に入ってもらえないでしょうね」

斎藤はここまで無駄に生きてきたわけではない。何でもよく理解している。

彼の鋭い目が山本と圭介を一巡し、心の中で状況を把握した。「圭介がやっているのは大事業だから、君と協力することはないだろう」

その言葉が終わるや否や、斎藤は続けた。「そういえば、豊盛を買収したと聞いたが？」

山本は驚いて目を丸くした。

豊盛？

それは百年の老舗の銀行ではないか？

「斎藤さんは情報通ですね」圭介は斎藤と乾杯した。

斎藤は賞賛の声を上げた。「君のビジネスは……」

彼は圭介に親指を立てた

そして新婦の両親が登場した。今日は彼らも主役のため、来客との挨拶は欠かせない。

圭介は巻き込まれたくなかったが、立場上、彼が彼らを探しに行かなくても、相手は来る。付き合いたくないのに、付き合わざるを得なかった。

香織は、翔太が何かを起こすのを心配し、小声で圭介に言った。「翔太も来てる。彼がトラブルを起こさないか心配だから、ちょっと探してくる」

圭介は軽くうなずき、彼女の耳元で囁いた。「気をつけて」

彼が近づくと、その体温と話すときの息が彼女の首に触れ、温かく、心臓が少し跳ねた。

その瞬間、温もりを感じた。

彼はまだ自分を気にかけている。

たとえ今、彼らの間には綾香の死があっても、彼は自分を大切に思っている。

「はい」彼女は優しく応えた。

斎藤は香織を一瞥したが、何も尋ねなかった。

今の大物たちに、女がいない者はほとんどいないのだ。

彼の若い頃、愛人が四人いて、さらに外に多くの「彼女」がいたのだから。

彼にとって、公開されていない者は妻になり得ない存在であり、知る必要もなかった。

香織は、自分が他人の心の中で、圭介の愛人にもなれない存在であることを知らなかった。

彼女は賑やかなホールを出て、後ろに行き、携帯を取り出して翔太にメッセージを送った。「どこ？会いましょう」

メッセージを送信したが、返信はなかった。

電話をかけようとしたとき、憲一を見かけた。今日は主役だが