第399話

　越人は少し腹を立てていた。彼女のミスは悪意からではなく、圭介にしっかり説明すれば、彼らの関係は修復できるはずだ。もし彼女がこのままの態度を続ければ、関係は危うくなる一方だ。

死んだのは圭介の母親なのだ。

「ちゃんと考えてください」越人は急いで彼女に追いついて言った。

その後、香織は晋也の前に立った。「M国に帰ってください」

晋也は顔を上げ、香織を見つめた。「それも彼女の意向なのか？」

綾香は手紙の中でそうは言っていなかった。

彼女自身が晋也が帰った方が良いと感じているだけだ。

「あなたには娘がいるでしょう？あなたは娘のそばに戻るべきです」香織は言った。

彼女が俺らに娘がいることを知っているのはどういうことか？

それも綾香から聞いたのだろうか？

「もし彼女がそう望むのなら、俺は彼女の言う通りにする」晋也は答えた。

香織はこの問題が早く終わることを願っていた。

心の中は本当に苦しく、特に圭介の冷たい目を見たときには息ができなくなった。

しかし、自分は冷静を装わなければならなかった。

彼女は白衣に着替え、仕事の準備をしていると、文彦に呼ばれた。

「今日はどうしてまだ出勤しているんだ？」文彦は聞いた。

「出勤しなければ、どこに行けばいいのですか？」香織は反問した。

文彦は言葉を失った。

今、圭介は彼女が手術で失敗して綾香を死なせたと考えているのだから、少なからず心にわだかまりがあるはずだ。

「この件に関しては感謝している。君がいなかったら、晋也は生きられなかっただろう……」

「感謝する必要はありません。綾香からあの手紙をもらっていなければ、私は同意しませんでした。あの手紙を読んだことを後悔しています」彼女はそんなに高尚ではなく、他人のために自分を犠牲にするつもりはなかった。

彼女がそうした理由は、綾香が圭介の母親だからだ。

「それでは」

「待って」文彦は彼女を呼び止め、引き出しからノートを取り出して渡した。「これは俺の臨床経験やこれまでの難病記録だ。君にとって役立つはず」

香織は仕事と生活を混同しなかった。彼女は手を伸ばして受け取った。「ありがとうございます」

「それから」文彦が再び呼び止めた。「院内にはメッド心臓研究センターへの一枠がある。もし行きたいなら、いつでも手配できる。メッドは世界最高の心臓外科研究センター、そこ