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第186話

振り返る必要はなく、声だけ聞けば、江川アナだとわかった。

江川宏は無表情で自分の腕を引き抜いた。「どうして来たんだ?」

「父さんが連れてきたんだよ」

江川アナの声は優しかった。「父さんは私が将来必ず江川家を手伝うことになるって言ってたから、顔見知りになるためにも来るようにって」

私は心の中で嘲笑しただけで、江川宏の冷たい声が聞こえた。「それなら彼を探しに行けばいいじゃないか、なぜ私についてくるんだ?」

「どうして?私がこんなに嫌われるようになったの?」

江川アナは怒っているふりをして、また取り入るように言った。「あら、この前の写真のことで怒ってないって、まだ気にするの?それに、浮気をするのは清水南でしょ、私じゃないわよ…」

「江川アナ!」

江川宏は厳しい声で制止し、彼女を振り払いそうになった。

江川文仁はどこからか現れ、親父のような口調で言った。「友達を数人見かけたから、挨拶に行ってくる。アナはこういう場に来たことがないから、彼女を気遣ってあげて、目のつけどころのない奴にからかわれないように」

……

私は大股で遠くに歩いていたが、江川宏の返答は聞き取れなかった。

重要ではなかった。

「わかった」と約束する以外に、ほかの選択肢はなかった。

ただ、私も初めてこのような上流社会の宴に参加することを、彼は思い出せないはずだった。

「南」

私が玄関に立ったばかりの時、山田時雄は一人の客と寒暄を終えると、直接私の方に歩いてきた。

視線を下に向け、私の裸の脚を見て、彼は温かい笑顔で言った。「行こう、宴会場に連れて行く。外は寒いから」

「わかった」

私は頷きながら、彼と一緒に庭園の階段を上り始めたところ、表情の悪い山田定子が口を開いた。「あなたは彼の心を引かれる女だね?見た目は確かに悪くない。だから、この何年も潜伏していた『息子』が、こんなに早く我慢できなくなった」

彼女は私を、山田時雄が好きな女の子だと思っていた。

私は眉をひそめ、話そうとしたが、山田時雄は冷淡で鋭い口調で言った。「関係ない人に怒るな」

山田定子は毛皮の肩掛けを整え、眉を上げて言った。「なぜ焦っているの?彼女に一言言っただけでもダメか?」

態度は良くなかったが、あの日の山田時雄を祠堂で殴った時と比べれば、まったく違う態度だった。

あの日は、まるで上から目線で、山田時
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