第108話

私は微かに固まって、言葉にできない悲しみが心に湧き上がった。

世界中が私が彼を好きだと知っていた。目と心には他の誰も入らないと思っていたのに、彼はいつも私が他の人を好きだと思っていた。

もしも昔なら、自分の心を取り出して見せたいと思った。江川宏、見て、この中にはあなたの名前しか書かれていないよ。でも今はできなかった。

たとえ取り出しても彼の名前は見つからなかった。ただ傷だらけだけが残るかもしれなかった。

河崎来依の家に帰る途中、河崎来依は心配そうに私を見つめ、言葉を濁して、最後に聞いた。「なぜ彼に流産したことを伝えないの？」

「意味がないでしょう」と私は言った。

私は腹を抱えて彼女の肩に頼り、声が弱々しくなった。「彼の一時的な心変わりを得るだけで、それからどうするの？」

このようなことは、私は既に何度も経験してきた。何度も仲直りを試み、何度も壊れてしまった。

今回の代償は、もっと悲惨だった。

「そうだね」

河崎来依はため息をつき、涙をこらえながら言った。「彼を自分の子供を殺した人と一緒にしておいて、彼が知ったその日、後悔する様子を見てみよう」

「必ずしも後悔するかもしれない」

江川アナのために私に冷たい顔で問い詰める様子を思い出すと、私は自分が哀れで悲しいと感じるだけだった。

彼が知ったところで、どうなるのだろう。

私の子供と江川アナの子供、彼は後者を選ぶだけだろう。

今日、道路で見た光景は、私に深い教訓を与えてくれた。

彼は遠くから私に駆け寄り、私が助けの手を差し伸べる時に、別の人の元に駆けていった。

彼は彼女を抱きしめ、彼女に向かって怒号を浴びせた……

突然、自分の8年間の感情が何の価値もないと感じた。

彼は私を愛していなかった。

たとえ私が彼の前で死んでも、彼はおそらく私の死体を越えて、江川アナのところに駆けつけるだろう。

どれほど感動的な深い情感だろう。

河崎来依はますます怒りを感じて言った。「南、警察に通報しようか？」

私は軽く首を振り、外の奇妙で賑やかな街並みを見つめながら言った。「今の鹿児島には、江川宏に勝てる人は何人いると思う？」

以前はお爺さんがいたから、このようなことが起きても江川宏を制御できたが、祖父はもういなかった。

警察署に騒ぎを起こしても、江川アナの罪を立証できるかどうかは別として、江川宏