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第45話  

 由佳はもう何も言わなかった。

部屋の中は静かになり、残るのは二人の呼吸の音だけだった。

由佳は山口清次が寝ているかどうかわからなかった。彼女は動かずにベッドに横になり、さっきまでの眠気はすっかり消え、頭はすっきりしていた。

長く横になっていたせいで、体が少し凝り固まってきたので、彼女は寝返りをうった。

しばらくして、山口清次が小さな声で何度か囁いた。「由佳?」

由佳は何も答えなかった。

山口清次は深呼吸をして、そっと毛布をめくり、ベッドから降りて、トイレに向かった。

シャワーの音がまた響き始めた。

しばらくして、山口清次はバスタオルに身を包み、トイレから出てきた。ベッドでは由佳の姿勢が変わっていた。

「俺、邪魔だった?」彼はベッドの端に座りながら、低い声で尋ねた。

「いや。」由佳は首を振った。

「眠れない?」

「うん。」

「じゃあ、ドイツ語の話をしようか?」

「うん、ありがとう。」

山口清次は中国語、英語、日本語、ドイツ語の四ヶ国語が話せる。

以前、由佳が眠れないとき、彼は彼女にドイツ語の話をしてくれた。

彼女はドイツ語が分からないが、彼の穏やかな話し声を聞いて、格別安心した。

部屋の中には山口清次の低い声がよく響いた。とても魅力的だった。

由佳は余計なことを考えるのをやめて、真剣に耳を澄まして聞いた。

どれだけの時間が経ったかわからないが、傍から呼吸音が聞こえてきた。山口清次の声は徐々に止まり、低い声で呼びかけた。

「由佳?」

返事はなかった。

彼女は眠っていた。

山口清次は彼女に布団をかけ直し、目を閉じて深い眠りについた。

微睡みの中で、携帯電話が鳴り、由佳は手探りで携帯を探し、目を閉じたままで受話キーを押した。

「誰?」

向こうの人は何も言わずに電話を切った。

由佳は目を細めて、画面を見て、驚いた顔をした。

彼女が持っていたは山口清次の携帯だった。

由佳は完全に目が覚めた。彼女は山口清次にかかってきた加波歩美の電話を受けてしまった。

由佳は急いで山口清次を起こし、「ごめんなさい、さっきあなたの電話を出ちゃった、歩美さんからの着信だった、彼女にかけ直したら?」

山口清次は携帯の画面を見て、起き上がってベッドから降り、加波歩美に電話をかけながらト
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