第430話

清次は虚ろな目をして、何かを思い出しているようだった。

彼は由佳を振り返り、意味深な眼差しを向けた。

由佳は心の中で色男を罵り、冷たく睨み返した。

清次は怒るどころか、低く微笑んだ。

その明るい笑顔に、由佳は背筋がゾクッとした。

彼女は急いで話題を変えた。「沙織、宿題はあるの？」

沙織は顔を上げてまばたきをした。「あるけど、とても簡単すぎる」

「そうか」

「おじさん、今家に帰るの？私も酒会に行きたい」沙織は清次を見上げ、彼の腕を揺らした。

「沙織、いい子にしなさい。まず家に送って、その後おじさんがケーキを持ってくるよ」

「ケーキはいらない、酒会に行きたいの！」

「ダメだ」

「ふん！無視する！」沙織は頬を膨らませ、顔をそむけて由佳の方に移動し、抱きついた。「おばちゃん、今晩も一緒に寝たい」

由佳は思わず同意しそうになった。

彼女は数秒ためらったが、断った。「沙織、今晩おばちゃんは遅く帰るかもしれないから、一人で寝てくれる？」

沙織は表情を変えずに言った。「待ってるよ」

「でも、おばちゃんが遅く帰るから、面倒を見てあげられない」

「私は自分でできるよ。顔を洗ったり、歯を磨いたり、服を脱ぐこともできる。もし眠くなったら、先に寝るから！」

由佳が沈黙していると、沙織は小さな口を尖らせ、可愛そうそうな目で見上げた。「おばちゃん、私のこと嫌いになったの？迷惑だと思ってる？」

彼女の大きな瞳を見て、由佳は心が柔らかくなり、急いで言った。「違うよ、おばちゃんは沙織のこと嫌いじゃない」

「嘘だ！私のこと嫌ってる！おばちゃん、沙織を嫌わないで！私はとてもいい子だよ！」沙織は顔を覆いながら泣き始めた。

由佳はその言葉を聞いて胸が締め付けられ、沙織の肩を抱いて軽く叩いた。「沙織、おばちゃんは本当に嫌ってないよ！泣かないで、おばちゃんは拒否してないから」

「本当に？おばちゃんは私を騙してるんでしょ」沙織は声を詰まらせた。

「本当だよ！」由佳は慌てて頷き、沙織の頭に自分の頭を寄せ、親しげに言った。「おばちゃんは嘘をつかないよ。今からおばちゃんの家に送るから、おばちゃんが帰るまで、高村の言うことを聞いてくれる？」

「やっぱりおばちゃんが一番好き！」

沙織は振り向いて由佳の胸に飛び込み、上を向いて笑顔で見つめ、目には勝利の笑みが浮かび、顔には涙がな