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第38話  

由佳は唖然として、唇を動かしたが、何も言葉が出てこなかった。

彼女は静かに深呼吸をし、胸の奥に苦しさと痛みを感じた。

由佳には勇気がなかった。

賭けをする勇気がなかったのだ。

由佳はとっくにわかっていた。山口清次の心の中では、彼女は加波歩美に比べれば何の価値もないということを。

山口清次は由佳に加波歩美の代わりにネットの攻撃を受けて苦しいめに遭って欲しいのだ。山口清次は、ただのネット上の噂では由佳を少しも傷をつけることはできないと思っている。

大田彩夏は由佳が黙っているのを見かねて言った。「山口総監督、賭けをする勇気がありますか?」

由佳は何も答えず、電話を切った。

彼女ははっきりとわかっていた。これは必ず負ける賭けであり、賭ける価値がないと。

たとえ山口清次がこの件を知らなくても、知ったとしても彼は大田彩夏の行動を支持するだろう。

ただ、彼女はこのままでは終わらせられない。この件について、誰かに説明を求めなければならない。

撮影スタジオの責任者から、あの日の化粧室内の監視カメラの映像が送られてきた。

音声はなかったが、その場の様子と行動から何が起こったかは歴然だった。

由佳はその一場面を切り取り、加波歩美のチームがいるグループチャットに送り、ファングループのスクリーンショットも添付して、「ネットで謝罪しなさい。そうでなければ、この監視カメラの映像を公開する。後悔することになるわよ!」と書き込んだ。

グループチャットは全員が沈黙した。

誰も反応せず、誰もこの件について責任を負おうとしなかった。

五分後。

由佳がグループチャットに反応がないことを確認し、マーケティングアカウントに連絡を取り始めた。

彼女はプロモーション活動をしていたことがあり、よく協力しているマーケティングアカウントが数件あった。

どうせ騒ぎを起こすなら、さらに大きくしてしまおう。どんなに悪評でも、良い評判でも、結局は注目されるのだから。

その時、由佳の電話が鳴った。

電話の画面には「山口清次」と表示されていた。

その二文字を見た瞬間、由佳は一瞬の喜びを感じた。もしかしてネットの件を見て、彼が彼女を心配してくれたのかもしれないと思ったのだ。

彼女は電話を取った。「もしもし、清くん。」

「由佳、監視カメラの映像を公
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