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第269話

 目を覚ました後、由佳はただ一人になっていた。

事故の後、記者たちが次々と報道し、山口家の人々や多くの善意の人々の助けを借りて、父親の葬儀と追悼会が行われた。

その時期、由佳は全てがぼんやりしており、どうしていいか分からず、まるで操り人形のようだった。

父親の死があまりにも突然で、何もできず、泣くことすらできなかった。

それからしばらく経ったある金曜日の夕方、学校から帰る途中、焼き魚のレストランの前を通り過ぎ、ガラス越しに人々の出入りを見ていた。

その平凡な瞬間に、どこかが触れたのか、気づいた時には涙が溢れていた。

その時初めて、父親が永遠に彼女の元を離れたことを実感した。

山口家に引き取られた後も、彼女はよく父親と過ごした小さな家に行き、父親を懐かしんでいた。

しかしその場所が取り壊されると、父親の遺品を整理して持ち帰った。

父親の衣類は全て焼却し、日常品、書籍、ノートだけを持ち帰った。

どの物も、由佳は父親の姿を思い出すことができた。

例えば、この金属製のライター、角がかなり擦り減っており、父親が夜遅くまで原稿を書いている時に、眠気と疲れを感じながらタバコを点けるのに使っていた。

例えば、このカメラは、SEというブランドのクラシックモデルで、父親は現場に行くたびに持参し、撮影と記録に使っていた。

例えば、積み重ねられた雑誌や、ファイルに挟まれた新聞、どれも父親が執筆した記事が含まれている。

また、一箱一箱のフィルムや、一冊一冊のアルバムも、父親が取材に関与した証拠が詰まっている。

手元にあるノートは、父親が草稿を書くためによく使っていたもので、びっしりと書き込まれた文字一つ一つが、父親の手によるものだ。

父親の字はとても整っており、ほとんど訂正がない。まるで入試の作文に出せば満点が取れるような整然さだ。

父親が最も有名な記事は食品添加物事件の追跡報道で、その原稿を由佳は何度も読み返し、文字一つ一つが鮮明に記憶されている。

それに、掲載された最終原稿と比較して、父親が修正した個別の表現の意図を推測したこともあった。

ノートの最後の草稿には、記事の冒頭だけが書かれていた。

報道されるはずだったのは、当時発生した誘拐事件で、ノートには変な角度の写真が挟まれていて、まるで盗撮のようで、この事件に関係しているように見えた。

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コメント (1)
goodnovel comment avatar
yas
不死身だな……… 絶対来るね……
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