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第143話

「よかったわ、私は現場で待っているからね。」

 電話を切った加波歩美は、得意げな目をし、「由佳、今度こそわかったでしょう?私に対して、清くんは何でも応じるのよ。彼は本当に由佳さんが好きじゃない。ここで断言しておくけど、9月20日に私が電話すれば、彼は必ず私のところに来るわよ。信じないなら見てなさい!」

 由佳の体がわずかに固まった。

 心の中に大きな穴が開いたように感じ、冷たい風が吹き込んでくる。

 結婚記念日がライバルの誕生日であることは、どうしても心から消せない刺のようなものだった。

 その日、山口清次が加波歩美と付き合うことになったら、どれほど失望するか想像もつかない。

 「見てなさい!」

 加波歩美は得意げに笑い、頭を高く上げて去って行った。

 由佳はその場にしばらく立ち尽くし、深呼吸をしてから再び棚の中に戻り、吉村総峰の演技を見た。

 どれくらい時間が経ったか分からないが、外で騒がしい音がした。

 誰かが棚の中に入ってきて、監督に「山口社長が加波さんに会いに来た」と伝えた。

 北村監督は大きなスピーカーで「休憩にしましょう。後で撮影を再開します。」と叫んだ。

 そう言うと、直接外に出て山口清次を迎えた。

 吉村総峰は昔の服装を着て由佳の前に現れ、「どう?僕の演技は?」と聞いた。

 「とても良かったわ。役の雰囲気が出ていた。」

 北村監督も吉村総峰の状態に満足しているようで、一つのシーンを撮り終えて、とてもスムーズでNGも少なかった。

 その時、現場のスタッフが四つの袋を持って入ってきた。それぞれの袋には四杯のフレッシュフルーツティーが入っていて、最近人気のフレーバーだった。

 「さあさあ、これは山口社長がみんなにご馳走してくれたミルクティーです。ひとり一杯ずつありますので、足りない場合は外で追加してください」

 由佳は冷笑し、心の中で「本当に目立つわね」と思った。

 吉村総峰は二杯のフルーツティーを取り、由佳に一杯渡し、「挨拶に行く?」と尋ねた。

 「はい」

 彼女が行かなくても、吉村総峰は行かなければならなかった。

 吉村総峰はこのドラマの主役で、山口清次は投資者のため、彼は挨拶に行く必要があった。

 二人は一緒に棚から出た。

 北村監督は山口清次と話していた。

 加波歩美は山口清次の隣に立ち、彼の腕を
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