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第5話

この数日間、新しい会社の業務で忙しく、猫の手も借りたいほどだった。

鈴木時矢は、私の邪魔をしないように気を遣ってくれて、いつも私が仕事を終えてから家まで送ってくれ、その上、自ら料理を作ってくれた。

彼は鈴木家の一人息子で、小さい頃から大切に育てられてきたため、こんなことをする機会などなかっただろう。

それでも彼はやってくれた。

私の好きな料理がずらりと並んだ食卓を見て、私は感動して彼を見つめた。

「時矢くん、ありがとう。まさかこんなに美味しい料理が作れるなんて思わなかったよ」

彼はただ静かに私の茶碗にご飯をよそってくれた。

「昔、ある人に約束したんだ。ずっと彼女のそばにいて、毎日彼女の好きな料理を作って、永遠に愛し続けるって......たとえ今、彼女が僕のことを覚えていなくてもね」

突然、記憶と重なる光景を目にして、私は思わず涙があふれ出た。

私はこれまでずっと強く生きてきたつもりだった。

しかし今、この瞬間だけは涙が止まらなかった。

22歳以前の記憶はほとんど曖昧になってしまった。

重度のうつ病と診断され、その後何度も電気ショック療法を受ける中で、大切なことすべてを忘れてしまったのだ。

目の前の彼のことさえも忘れてしまったようだが、それでも私は覚えているはずだった......

「絶対に彼のことは忘れない」と誓ったことを。

私は茶碗を手に持ちながら、涙でぼやけた目で彼を見つめた。

「なんだか......昔あなたと知り合いだった気がする」

鈴木時矢はただ私を抱きしめ、優しく背中をさすりながら言った。

「大丈夫だよ。今から新しく始めればいいさ」

私が忙しくしている間、高橋健太もまた、中村家に対して手を打ち始めていた。

電話が繋がった瞬間、私は鈴木時矢と新しいビジネスについて話し合っていた。

「華蓮、会社で問題が起きたの。一度戻ってこれない?」

私は黙って答えなかった。すると母の怒りが急激に高まった。

「華蓮!あなたは私たち夫婦の唯一の娘なのよ!家業はお兄さんが管理しているけど、あなただって家族の一員でしょ!小さい頃からあなたには何一つ不自由させてこなかったじゃない!」

私は静かな声で、しばらくしてからようやく一言だけ答えた。

「わかった」

翌日の昼、私は鈴木時矢と一緒に東京へ戻った。

どうやら情報が伝わっていたようで
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