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第2話

食事の時、美咲は、僕の料理が相変わらず美味しいと褒め称えた。

彼女はスマホをいじりながら笑っていたが、その笑顔にはどこか冷たさがあった。

自分がどれだけ尽くしても、彼女は他の男を求め続けるんだな。

食べ終わってしばらくすると、美咲はすぐに寝てしまった。

僕は彼女のスマホを手に取った。

暗証番号は彼女の誕生日だった。

見つけたのは、トップに固定された「鈴木先生」のメッセージだった。

僕とのLineは、もうずっと下の方に埋もれていて、トーク画面には見当たらなかった。

鈴木先生とのチャット履歴を開くと、彼女が彼を「旦那」と呼んでいるのに気が付いた。

本来は自分が呼ばれるべきその呼称が、他の男に向けられていた。

彼女らのメッセージを読み進めるのは、目に突き刺さるような痛みを感じさせた。

美咲が「ああ、山本悠人が電気を先に切るなんて思ってもみなかったわ。私たちの新婚旅行の計画は延期しなくちゃ。

ほんとにうんざり。どうして死ななかったの?鈴木先生、私は今すぐあなたと一緒にいたいのに」と言うと、「鈴木先生」が、

「大丈夫だよ、美咲。僕たちの心が一つなら、それで十分さ。彼のことは次の機会にしよう」と返していた。

このチャット履歴は二ヶ月前から始まっていた。

最初は絵画についての話し合いに過ぎなかった。

しかし次第に、二人の会話の内容は曖昧なものへと変わっていった。

彼女は日常の些細なことまで彼に共有していた。

僕には冷たい態度しか見せず、必要最低限の会話以外、何もなかったくせに。

本当に信じられない……!

チャット履歴を見ながら、怒りが胸の奥で膨れ上がっていったのを感じた。

美咲、あれほどまでにあなたのためにお金をかけて学ばせてあげたのに、これがその結果だというのか。

迷いなく、彼らのすべてのチャット履歴を僕のクラウドにバックアップした。

最後のメッセージから、重要な情報を手にいれた。

「じゃあ、明日も一緒に絵を描こうか?」

「鈴木先生」がこう問うと、美咲はこう答えた。

「あら、鈴木先生ったら、意地悪ね」

僕は眉をひそめて考えた。

絵?何の絵だ?

普通の絵であれば、美咲がこんな態度を取るはずがない。

直感によって、これは絶対に普通のことではないことが分かった。

翌日、美咲は珍しく早起きし、化粧台の前で念入りに化粧をしていた。

彼女はお気に入りのピンクのワンピースを身にまとい、小さなパールのイヤリングをつけ、

「行ってきます、勉強してくるね」と言って出かけていった。

彼女が嬉しそうに小さな革靴を履いて出かけていったその姿を、僕は静かに見送った。

その一言の「行ってきます」すら、彼と会うことに対する喜びからくるものであった。

僕はそっと彼女の後をつけた。彼女がまずアトリエに行き、それから、鈴木真一の家に入っていったのを見た。

真一の生徒たちを教えるアトリエは、自宅の隣にある二部屋を借りたものだった。

僕はしばらく待ちながら、どうすれば見つからずに部屋に入れるか考えていた。ちょうどその時、デリバリーの配達員が玄関前にやってきた。

「608のデリバリーですか?」と僕は声をかけた。

「ええ、そうです」と配達員が答えた。

「僕が受け取ります」と言ってデリバリーを受け取り、1万円を渡して彼の服を買い、マスクをかけて玄関に向かった。

ドアをノックすると、部屋の中から美咲の声が聞こえてきた。「玄関に置いておいてって言ったのに!」

次に聞こえたのは、低い男性の声だった。

「大丈夫だよ、美咲、僕が取ってくるよ」

真一がドアを開けたとき、床に落ちた美咲のピンクのワンピースの一部が目に飛び込んできた。

ドアの隙間から、キャンバスの上に裸の女性がバルコニーに立っているのが見えた。

頭の中で雷鳴が轟くような音が響いた。

僕はどうやって階段を下りたのか覚えていなかった。

美咲がその部屋に入っていったのを目撃した。そして、部屋の中にいたのは美咲一人だけ……

二人が何かしているのは予感していたが、まさかこんなことが起きているとは思わなかった。

美咲が真一のためにヌードモデルをしているなんて!

僕は、ビルの下で、2時間近く風に吹かれていた。

守衛のおじさんがそんな僕を見て、2時間も同じ場所に座って動かなかった僕にタバコを差し出した。

「若者、誰にでも問題はあるもんだ。解決したらまたうまくいくさ。あんまり落ち込むなよ」

うまく吸えなかったタバコの煙にむせて、涙がこぼれ落ちた。

少し落ち着いてから再び部屋のドアをノックした。

「鈴木先生、美咲を迎えに来ました」

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